(図解)簡単に理解できる「コーポレートガバナンス・コード」の基礎? ~経営者と株主の適切な関係性~
【難易度★★★☆☆】

コーポレートガバナンス・コードとは?

定義

「コーポレートガバナンス・コード」とは、上場企業が行う企業統治(コーポレートガバナンス)において、ガイドラインとして参照すべき原則・指針を示したものをいいます。

Corporate Governanceの頭文字をとって「CGコード」と略されることもあります。

相談者

んー、、抽象的でよく分からないですね。。

会計士

実際の原文を見ながら少しずつイメージをつけていきましょう。やや概念的でお勉強的な内容にはなるのですが、重要な考え方なのでしっかりと理解しましょう。

なぜコーポレート・ガバナンスが必要なのか?

会計士

原文を読む前に「なぜ」コーポレート・ガバナンス(企業統治)が必要なのかを考えていきます。「株主=会社の所有者」という点がポイントです

株を保有するということ

株を保有するということは、一言でいうと「会社の所有者になる」ということです。

例えば、トヨタやソフトバンクのような大企業の所有者の一人になれるということです。

株式投資
相談者

ん?会社の所有者は孫正義さんのような経営者ではないのですか?

会計士

会社の所有者は、あくまで出資者である「株主」です(オーナー会社のように「経営者=株主」というケースでは、経営者が所有者です)。

経営者は、株主の委任に基づいて会社の経営を行っているという立場にあります

もう少し表現を変えると、例えばソフトバンクグループの株を買うことによって、以下のような状態を作ることができます。

  • 孫さんを含めたソフトバンクグループが自分(株主)のために働いてくれる
  • ソフトバンクの契約者が増えれば増えるほど、自分(株主)にリターンが返ってくる
  • ソフトバンクのような企業のビジネスに乗っかることができる

「株式投資をする」というのは、自分で働くのではなく、投資先に出資することで投資先に働いてもらっていることと同じです(「お金に働いてもらう」という表現もありますね)。

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会計士

実際の業務執行権限は、経営者である取締役にあるため、好き勝手な経営をされてしまうと、オーナーである株主が不利益を被ってしまう可能性があります

相談者

なるほど。そこで、好き勝手な経営がされないように「コーポレート・ガバナンス(企業統治)」が必要になってくるということですね。

コーポレート・ガバナンスコードは法律ではない

会計士

そのとおりです。また、コーポレート・ガバナンスコードはあくまで法律ではなく、ガイドラインであるという点もおさえておきましょう

相談者

似たような話として「J-SOX」については、法律で定められていると聞いたことがあります。

会計士

そうですね。いわゆる「J-SOX」は、金融商品取引法という法律で求められている要求事項になります。

一方、「コーポレート・ガバナンスコード」は、東京証券取引所に上場する会社に対して、証券所のルール・ガイダンスとして公表されているものになります。

相談者

証券取引所としては、株主に安全に売買を行ってほしいため、上場企業に対してコーポレート・ガバナンスを求めているということですね。

会計士

そのとおりです。そのため、コーポレート・ガバナンスコードに準拠していない場合には、上場審査の基準にひっかかることになります。

なお、すべての項目に「遵守」している必要はなく、遵守しない項目については説明」することが求められています

「コンプライ・オア・エクスプレイン」という考え方を採用しており、すべての項目に遵守(コンプライ)していなくても遵守していない理由を適切に説明(エクスプレイン)することでコーポレート・ガバナンスコードに準拠することができます。

コーポレート・ガバナンスコードを読んでみる

会計士

それでは、実際の「コーポレート・ガバナンスコード」の原文を読んでみましょう。

株主の権利・平等性の確保

上場会社は、株主の権利が実質的に確保されるよう適切な対応を行うとともに、株主がその権利を適切に行使することができる環境の整備を行うべきである。

また、上場会社は、株主の実質的な平等性を確保すべきである。少数株主や外国人株主については、株主の権利の実質的な確保、権利行使に係る環境や実質的な平等性の確保に課題や懸念が生じやすい面があることから、十分に配慮を行うべきである。

東京証券取引所「コーポレート・ガバナンスコード」より
会計士

まず最初に謡っているのが「株主の権利・平等性の確保」です。所有者である株主の権利を保護することを第一に考えているということですね

たとえば、不適正な価格で増資を行うなど、特定の株主の権利を害するような企業運営はNGということです。

相談者

なるほど。やはり「株主」という観点がまず第一に来るのですね。

「議決権の電子行使」の仕組みを作るといったことも遠隔地にいる株主の権利を保護する観点から有用です。

株主以外のステークホルダーとの適切な協議

上場会社は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出は、従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会をはじめとする様々なステークホルダーによるリソースの提供や貢献の結果であることを十分に認識し、これらのステークホルダーとの適切な協働に努めるべきである。

取締役会・経営陣は、これらのステークホルダーの権利・立場や健全な事業活動倫理を尊重する企業文化・風土の醸成に向けてリーダーシップを発揮すべきである。

東京証券取引所「コーポレート・ガバナンスコード」より
会計士

また、会社の成長のためには株主だけでなく、様々なステークホルダーの権利や立場を尊重した企業運営を行っていく必要があるということも謡っています

相談者

当然のことのようにも見えますが、ステークホルダーとの関係を構築することや、社会貢献という観点も企業価値に通ずるというような意味合いですね。

だいぶ浸透した言葉になってきましたが、いわゆる「SDGs」「サステナビリティ」といった観点も重視されてきています。昨今の改定ではサステナビリティに関する記載が拡充されました。

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適切な情報開示と透明性の確保

上場会社は、会社の財政状態・経営成績等の財務情報や、経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスに係る情報等の非財務情報について、法令に基づく開示を適切に行うとともに、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきである。

その際、取締役会は、開示・提供される情報が株主との間で建設的な対話を行う上での基盤となることも踏まえ、そうした情報(とりわけ非財務情報)が、正確で利用者にとって分かりやすく、情報として有用性の高いものとなるようにすべきである。

東京証券取引所「コーポレート・ガバナンスコード」より
会計士

適切な情報開示(決算短信・有価証券報告書等)を行うことも謡われています。

相談者

有価証券報告書のような充実した開示情報があると、投資家の方々も安心して取引ができますよね。

会計士

そうですね。ページ数が多く作成の手間は大きいですが、投資家にとっては非常に重要な情報源となっています。

外部監査人(監査法人)による監査を行うことも情報開示の適切性を担保するうえでは重要な機能です。

取締役会等の責務

上場会社の取締役会は、株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ、会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促し、収益力・資本効率等の改善を図るべく、

(1) 企業戦略等の大きな方向性を示すこと

(2) 経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと

(3) 独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うことをはじめとする役割・責務を適切に果たすべきである。

こうした役割・責務は、監査役会設置会社(その役割・責務の一部は監査役及び監査役会が担うこととなる)、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社など、いずれの機関設計を採用する場合にも、等しく適切に果たされるべきである。

東京証券取引所「コーポレート・ガバナンスコード」より
会計士

実務的にはこのあたりが非常に重要なポイントとなりますが、ここまでの点を踏まえて、経営者がどのような責務を果たすべきか(どのような振る舞いをすべきか)といったことが謳われています

相談者

単に経営のかじ取りをするだけでなく、お互いの「監督」という点にも言及されているようですね。

会計士

そうですね。昨今、特に注目されているポイントで「社外取締役」「社外監査役」を設置することでより監督機能を強化できるといわれています

相談者

いわゆる「経営のプロ」のような人を外部から雇うことによって、経営者の暴走を抑止するということですね。

会計士

そのとおりです。また、ダイバーシティの観点から女性や外国人の登用といったより多角的な視点というのも昨今のトレンドとなっています。

株価連動型報酬(ストックオプション等)は、経営者が事業を成長させるための行動をするインセンティブになることから、適切な企業運営の観点から有用といわれています。

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株主との対話

上場会社は、その持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するため、株主総会の場以外においても、株主との間で建設的な対話を行うべきである。

経営陣幹部・取締役(社外取締役を含む)は、こうした対話を通じて株主の声に耳を傾け、その関心・懸念に正当な関心を払うとともに、自らの経営方針を株主に分かりやすい形で明確に説明しその理解を得る努力を行い、株主を含むステークホルダーの立場に関するバランスのとれた理解と、そうした理解を踏まえた適切な対応に努めるべきである。

東京証券取引所「コーポレート・ガバナンスコード」より
会計士

最後に少し抽象的ではありますが、「株主との対話」という観点も重視されています。

相談者

経営が暴走しないようにするために、株主とのコミュニケーションが必要というようなイメージですかね。「モノ言う株主」といった表現がされたりもしますよね。

会計士

そうですね。また、経営の透明性を確保する上では、法定開示にとどまらず、に株主との対話を通じて積極的に情報を発信していくことが求められます

「株主との対話」の観点から、法定開示書類だけでなく「アニュアルレポート(統合報告書)」等のIR書類の充実を図る企業が増えています。

本記事のまとめ
  • 「コーポレート・ガバナンスコード」とは、上場企業が行う企業統治(コーポレートガバナンス)において、ガイドラインとして参照すべき原則・指針を示したもの
  • 所有者である株主の保護などの観点から高揚されており、証券取引所が作成するガイドラインである(法律ではない)
  • 「コーポレートガバナンス・コード」は、以下の5つの基本原則により構成される
  1. 株主の権利・平等性の確保
  2. 株主以外のステークホルダーとの適切な協議
  3. 適切な情報開示と透明性の確保
  4. 取締役会等の責務
  5. 株主との対話