(実践編)「リクルートHD」の決算書分析_2022.3 ~有価証券報告書を読んでみる⑪~
【難易度★★★☆☆】

会計士

今回は、求人広告、人材派遣といった事業を手掛ける「リクルートホールディングス」の決算書を分析していきます。

相談者

「ゼクシィ」「じゃらん」「hotpepper」など、CMでもよく見かけますね。

会計士

そうですね。ほかにも「Indeed(インディード)」「SUUMO(スーモ)」など、転職、引越、結婚など、ライフサイクルの各ステージごとにお世話になることが多い企業です

主要な経営指標の推移

会計士

まずは、有価証券報告書の「主要な経営指標の推移」を見て、会社の全般的な経営状況を把握していきましょう。全体像を把握してから、徐々に細かい注記情報等に深堀りしていく読み方がおすすめです

(2022年3月期 リクルートHD「有価証券報告書」より抜粋)
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「主要な経営指標の推移」については、以下の記事もあわせてご参照ください。

相談者

いきなり脱線ですが、色がついていて非常に見やすい有報ですね!

会計士

そうですね。投資家目線に立って、読みやすい「有価証券報告書」を作ってくれているという印象です。

会計士

主要な指標である「売上高(売上収益)」「当期純利益」については、グラフを作成して見ましたので、あわせて推移を見てみましょう(単位:百万円)。

今年の業績内容を見てみると、今期は売上・利益ともに好調だったようですね

相談者

当期純利益に関しては、去年の「2倍以上」の水準になっていますね。

会計士

そうですね。そのため、ROE等の指標も同様に去年の2倍近い水準になっています。期間比較を行う際には留意しましょう。

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年度によって利益水準等に変動が生じている場合、「期間比較」を行うことが有用です。以下の記事もあわせてご参照ください。

連結決算書

会計士

次に「BS」「PL」「CF計算書」という3つの主要な決算書を見ていきましょう。

以下、いずれも「連結ベース」で分析を進めていきます。

連結BS

会計士

まずは「BS」から見ていきます。後述しますが、流動比率や自己資本比率といった指標とあわせて見ていくと、会社の状況をより把握することができます。ここではBSの概況だけ見ておきます。

相談者

純資産の比率が半分以上あるようですし、パッと見た限りだと健全なBSに見えますね。

会計士

そうですね。後述しますが、キャッシュフロー残高(現金預金)も比較的大きくなっており、安全性の観点から大きな問題はなさそうです。

流動資産の半分近い「約6,700億円」のキャッシュを保有しています。

連結PL

会計士

次に「PL」を見ていきます。こちらも後述しますが、利益率、ROA、ROEといった指標とあわせて見ていくと、会社の状況をより把握することができます。ここではPLの概況だけ見ておきます。

相談者

純利益率は「10%」を超える水準となっていますし、こちらも大きな問題はなさそうです。

会計士

そうですね。今年は利益が2倍になっているので、去年の水準で言うと、「5%」くらいということですね。年度によって増減がありそうなので、分析の際には留意が必要です

連結CF

会計士

最後に「CF計算書」を見ていきます。営業CFがプラスとなっており、投資CF、財務CFがそれぞれマイナスとなっています

「為替による変動額」は除いているため、「期首+営業CF+投資CF+財務CF≠期末」となっています(為替影響は+54,007M)。

相談者

本業で儲かったお金をもとに将来投資や借金の返済に回しているんですね。

会計士

そうですね。以下の分類における「優良型」に該当しますので、キャッシュ・フローのパターン的には問題なさそうです。

注記情報

会計士

もう少し深堀りをするために「セグメント情報」「収益の分解」といった注記情報についても見ていきましょう。

セグメント情報

会計士

リクルートHDは、「HRテクノロジー」「メディア&ソリューション」「人材派遣」といった事業別にセグメント情報の開示を行っています

矢印
(2022年3月期 リクルートHD「有価証券報告書」より抜粋)
相談者

「HRテクノロジー」という事業が大きく成長していますね。

会計士

そうですね。去年の外部売上が約4,200億円に対して、今年は約8,500億円と2倍近い数字になっています(以下、セグメント業績に関する記載を抜粋)。

(2022年3月期 リクルートHD「有価証券報告書」より抜粋)
相談者

CMでよく見る「Indeed事業」などがここに含まれるんですね。

会計士

そうですね。業績が好調なのは、コロナ禍からの回復によって転職市場が活発になったことが1つの影響のようです。

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「セグメント情報」については、以下の記事もあわせてご参照ください。

セグメント情報

収益の分解

会計士

リクルートHDは、サービス別に収益を分解して開示を行っています

(2022年3月期 リクルートHD「有価証券報告書」より抜粋)
相談者

人材派遣事業ですが、日本よりも海外の売上のほうが大きくなっているんですね。

会計士

そうですね。海外に関しては各地域の合計数値となっていますが、日本の売り上げを超えるほどの水準となっているようです

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指標分析

会計士

ここからは安全性や収益性といった様々な指標を見ながら、決算書の分析をさらに進めていきます。まずは「安全性」の指標を見ていきます。

安全性分析

流動比率

会計士

リクルートHDの「流動比率」は169.9%と目安の100%を上回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。

同業他社
  • パーソル ⇒ 170.9%
  • パソナ ⇒ 156.9%

自己資本比率

会計士

リクルートHDの「自己資本比率」は56.3%と目安の50%を上回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。

同業他社
  • パーソル ⇒ 43.4%
  • パソナ ⇒ 24.5%
相談者

安全性の観点からは、大きな問題がないように見えますね。

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「安全性分析」については、以下の記事もあわせてご参照ください。

収益性分析

会計士

次に「収益性」の指標を見ていきます。

利益率

リクルートHD
  • 売上総利益率 ⇒ 57.5%
  • 営業利益率  ⇒ 13.2%
  • 税引前利益率 ⇒ 13.3%
  • 当期純利益率 ⇒ 10.3%
会計士

なお、同業他社の数字は以下のとおりとなっています(パーソルは2022年3月期、パソナは2022年5月期の有価証券報告書より計算しています)。

パーソル
  • 売上総利益率 ⇒ 22.7%
  • 営業利益率  ⇒ 4.5%
  • 税引前利益率 ⇒ 4.7%
  • 当期純利益率 ⇒ 3.0%
パソナ
  • 売上総利益率 ⇒ 24.5%
  • 営業利益率  ⇒ 6.0%
  • 税引前利益率 ⇒ 6.1%
  • 当期純利益率 ⇒ 2.4%
相談者

同業他社と比べて高い水準にあるようですね。

ROA

会計士

リクルートHDの「ROA」は12.9%と目安の5%を上回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。

同業他社
  • パーソル ⇒ 7.9%
  • パソナ ⇒ 4.9%

ROE

会計士

リクルートHDの「ROE」は24.2%と目安の8%を上回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。

同業他社
  • パーソル  18.6%
  • パソナ ⇒ 19.6%
相談者

ROA、ROEの水準はいずれも目安を上回っていますし、収益性についても大きな問題はなさそうです。

デュポンシステムによる分解

会計士

ここからはROEをさらに分解して分析を進めていきます。

リクルートHD
  • 利益率 ⇒ 10.3%
  • 総資産回転率 ⇒ 1.24
  • 財務レバレッジ ⇒ 1.88
パーソル
  • 利益率 ⇒ 3.0%
  • 総資産回転率 ⇒ 2.64
  • 財務レバレッジ ⇒ 2.37
パソナ
  • 利益率 ⇒ 2.35%
  • 総資産回転率 ⇒ 2.06
  • 財務レバレッジ ⇒ 4.03
相談者

総資産回転率も悪くないですし、財務レバレッジも高すぎるというわけではなさそうです。

あわせて読みたい

その他のデュポンシステムの事例については、以下の記事をあわせてご参照ください。

株価分析

会計士

最後に「PBR」「PER」といった株価関連の指標を見て分析を終わりにします。

株価分解

会計士

まずは、2022年3月時点における株価の構成要素分解をしていきます。

計算式

「株価」は、以下の式で計算することができます。
株価 = PER × EPS(一株あたり純利益)

PBR

会計士

直近(9/16時点)の楽天証券におけるPBRは「5.18」となっています。

PBRの計算式

「PBR」は、以下の式で計算することができます。
PBR(株価純資産倍率)= 株価÷1株あたりの株主資本

PER

会計士

直近(9/16時点)の楽天証券におけるPERは「22.9」となっています。

PERの計算式

「PER」は、以下の式で計算することができます。
PER(株価収益率)=株価÷1株あたりの利益

相談者

PBR、PERともに目安となる水準を上回っていますが、そこまで高いという水準ではなさそうですね。

先日「2023年3月期 第1四半期」の決算発表も公表されましたので、最新の決算数値もあわせて読んでみましょう。

リクルートHD HP:IR情報
https://recruit-holdings.com/ja/ir/

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本記事のまとめ
  • 「主要な経営指標の推移」⇒「BS」「PL」「CF」⇒「注記情報」⇒「指標分析」といったように、まずはハイレベルな情報から読み始め、徐々に細かい注記情報等を見ていくのがおすすめ
  • 今期は業績が好調であり、特に「HRテクノロジー(Indeedなど)」事業が大きく成長しており、グループとしても成長のための投資を進めている
  • 安全性、収益性のいずれの指標も目安を上回っており、同業他社との比較をしても問題ない水準であると考えられる

「決算書」ってどこで見れるの?

上場している会社の決算書は以下のページから見ることができます。

  1. 会社のHP
  2. EDINET

①の会社のHPから見るときは「IR情報」というページ見れることが多いです。その他「決算情報」等会社によってHPの構成や呼び方は違いますが、これらのキーワードで簡単に見つかると思います。
②の「EDINET」は、金融庁のページです。「書類検索」→「会社名を検索」すると、各社の決算書類を見ることができます(以下にリンクを張っておきます)。

(EDINET) https://disclosure.edinet-fsa.go.jp/

非上場(上場していない)会社の決算書は、株主にならないと見れないケースも多いです。株主になった場合は、株主総会の招集通知に決算書が添付されていますので、ここから見ることができます。