(実践編)「SONYグループ」の決算書分析_2022.3 ~有価証券報告書を読んでみる⑤~
【難易度★★★☆☆】

会計士

今回は「SONYグループ」の決算書を分析していきます。

相談者

エンタメから金融まで幅広い事業を行っているイメージがありますね。

会計士

そうですね。幅広い事業を行っている企業の分析には「セグメント情報」や「収益の分解」といった注記情報を参照することが有用です

主要な経営指標の推移

会計士

まずは、有価証券報告書の「主要な経営指標の推移」を見て、会社の全般的な経営状況を把握していきましょう。全体像を把握してから、徐々に細かい注記情報等に深堀りしていく読み方がおすすめです

(2022年3月期 SONYグループ「有価証券報告書」より抜粋)
(2022年3月期 SONYグループ「有価証券報告書」より抜粋)
会計士

SONYグループは、2022年3月期より会計基準を「米国基準(US-GAAP)」から「IFRS」に変更しています。そのため、期間比較をする際には留意が必要です。

相談者

US-GAAPからIFRSへの変更による影響を分析するにはどうすれば良いのでしょうか。

会計士

「調整表」という資料を見ることで会計基準の変更による影響を分析することができます。本記事でも触れていますので、ぜひ実物を読んでみましょう。

上図では「J-GAAP」と記載されていますが、「US-GAAP」の場合も同様に調整表を作成します。

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会計士

主要な指標である「売上高(売上収益)」「当期純利益」については、グラフを作成して見ましたので、あわせて推移を見てみましょう(単位:百万円)。

相談者

会計基準の変更による影響をいったん無視すると、業績は比較的安定してるように見えますね。

会計士

そうですね。昨年は利益が「1兆円」を超えるということでニュースになっていました。今期の純利益は8,000億円ということで昨年よりは小さくなっていますが、営業利益は過去最高となっていますし、業績は好調といえるかと思います。

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「主要な経営指標の推移」については、以下の記事もあわせてご参照ください。

連結決算書

会計士

次に「BS」「PL」「CF計算書」という3つの主要な決算書を見ていきましょう。

以下、いずれも「連結ベース」で分析を進めていきます。

連結BS

会計士

まずは「BS」から見ていきます。後述しますが、流動比率や自己資本比率といった指標とあわせて見ていくと、会社の状況をより把握することができます。ここではBSの概況だけ見ておきます。

相談者

負債の割合が高いですね。流動資産よりも流動負債が多いというのも気になります。

会計士

そうですね。負債の割合が大きいのは「金融事業」の影響によるものです。顧客から預かった預金をもとに長期投資へまわしているため、このような形になることが一般的です。

なお、ソニーグループでは、金融事業、それ以外のBSをそれぞれ開示しています。以下の図は金融事業の影響を除いたBSですが、流動資産>流動負債となっています。

会計士

一方、以下の「金融事業」のBSを見ると、流動資産<流動負債となっていることがわかります。

相談者

なるほど。流動負債が多いということは、「仮に」預金者が一斉に引き出した場合、資金繰りが厳しくなるような状況ということでしょうか。

会計士

数字上はそうなりますね。ただ、仮に預金者が一斉に引き出すようなことがあっても、換金性の高い投資資産を現金化することになるため、実質的に問題になるようなことはないかと思います。

連結PL

会計士

次に「PL」を見ていきます。こちらも後述しますが、利益率、ROA、ROEといった指標とあわせて見ていくと、会社の状況をより把握することができます。ここではPLの概況だけ見ておきます。

相談者

最終的な純利益が9%近くあるので、収益性に問題はなさそうです。

「持分法による投資利益」を営業利益に含めているんですね。

会計士

そうですね。持分法による投資利益は、会社によって計上区分が異なるため、企業比較を行う際には留意する必要があります

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連結CF

会計士

最後に「CF計算書」を見ていきます。営業CFがプラスとなっており、投資CF、財務CFがそれぞれマイナスとなっています

相談者

本業で儲かったお金をもとに将来投資や借金の返済に回しているんですね。

会計士

そうですね。以下の分類における「優良型」に該当しますので、キャッシュ・フローのパターン的には問題なさそうです。

注記情報

会計士

もう少し深堀りをするために「セグメント情報」「収益の分解」といった注記情報についても見ていきましょう。

セグメント情報

会計士

SONYグループは「ゲーム&ネットワークサービス」「音楽」「映画」「エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション」「イメージング&センシング・ソリューション」「金融」「その他」といった事業・サービス別にセグメント情報の開示を行っています

(2022年3月期 SONYグループ「有価証券報告書」より抜粋)
(2022年3月期 SONYグループ「有価証券報告書」より抜粋)
相談者

「ゲーム&ネットワークサービス」が最も大きな事業セグメントとなっていますが、それ以外の事業についても1兆円近い規模の事業を行っているんですね。

会計士

そうですね。非常に幅広い分野において、バランスよく事業展開していることがわかります。

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「セグメント情報」については、以下の記事もあわせてご参照ください。

セグメント情報

収益の分解

会計士

SONYグループは、事業別のセグメント情報をさらに詳細なサービス別に分解して収益の分解を開示しています

(2022年3月期 SONYグループ「有価証券報告書」より抜粋)
相談者

詳細なサービス別に数字を見てみると、改めて幅広い事業に展開していることがわかりますね。また、各分野における主力サービスも見えてきます。

会計士

そうですね。たとえば、「エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション」事業を見ると、いまでもテレビが主力製品となっていることがわかります。

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初度適用(調整表)

会計士

SONYグループは、2020年4月1日を「IFRS移行日」として、IFRS基準を採用しています。IFRS適用による影響を「初度適用」の注記情報から分析していきましょう。

本記事では「PLに対する調整表」の対象を絞って分析していきます。

(2022年3月期 SONYグループ「有価証券報告書」より抜粋)
相談者

IFRSのほうがUS-GAAPよりも純利益ベースで「1,400億円ほど小さくなっていますね

会計士

そうですね。主な要因は、金融商品に関する会計処理の差異によるものです(以下の注釈参照)。

非常にマニアックなので、本記事では割愛しますが、IFRS9の内容を勉強した後であれば、以下の記載を理解することができます(要約すると、US-GAAPでは「PL損益として処理」していたものがIFRSでは「OCIとして処理」するため、差異があるということです)。

(2022年3月期 SONYグループ「有価証券報告書」より抜粋)
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指標分析

会計士

ここからは安全性や収益性といった様々な指標を見ながら、決算書の分析をさらに進めていきます。まずは「安全性」の指標を見ていきます。

安全性分析

流動比率

会計士

SONYグループの「流動比率」は63.2%と目安の100%を下回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。

SONYグループは幅広く事業展開しているため、純粋な同業他社がいないのですが、ゲーム関連で「任天堂」、エレクトロニクス関連で「パナソニック」と比較させていただきます。

同業他社
  • 任天堂 ⇒ 393.2%
  • パナソニック ⇒ 131.5%
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「任天堂」はキャッシュリッチなため、流動比率が高くなっています。以下の記事もあわせてご参照ください。

自己資本比率

会計士

SONYグループの「自己資本比率」は23.4%と目安の50%を下回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。

同業他社
  • 任天堂 ⇒ 77.7%
  • パナソニック ⇒ 39.5%
相談者

BSの分析でも見ましたが、ここにも「金融事業」による影響が出ていますね。

会計士

そうですね。金融事業の特徴でもあるので、安全性という意味では大きな問題はなさそうです。

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「安全性分析」については、以下の記事もあわせてご参照ください。

収益性分析

会計士

次に「収益性」の指標を見ていきます。

利益率

SONYグループ
  • 売上総利益率 ⇒ 27.2%
  • 営業利益率  ⇒ 12.1%
  • 税引前利益率 ⇒ 11.3%
  • 当期純利益率 ⇒ 8.9%
会計士

なお、同業他社の数字は以下のとおりとなっています(2022年3月期の有価証券報告書より計算しています)。

任天堂
  • 売上総利益率 ⇒ 55.8%
  • 営業利益率  ⇒ 35.0%
  • 税引前利益率 ⇒ 39.8%
  • 当期純利益率 ⇒ 28.2%
パナソニック
  • 売上総利益率 ⇒ 28.2%
  • 営業利益率  ⇒ 4.8%
  • 税引前利益率 ⇒ 4.9%
  • 当期純利益率 ⇒ 3.5%
相談者

任天堂は非常に高い水準にありますが、SONYグループの数字自体は、そんなに悪い水準ではなさそうですね。

ROA

会計士

SONYグループの「ROA」は3.0%と目安の5%を下回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。

同業他社
  • 任天堂 ⇒ 18.7%
  • パナソニック ⇒ 3.4%
相談者

こちらも金融事業の影響でBSが膨らんでいる影響がありそうですね。

ROE

会計士

SONYグループの「ROE」は12.8%と目安の8%を上回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。

同業他社
  • 任天堂  24.2%
  • パナソニック ⇒ 8.9%
相談者

ROEの水準は目安を上回っていますね。分解分析の数字も気になります。

デュポンシステムによる分解

会計士

ここからはROEをさらに分解して分析を進めていきます。

SONYグループ
  • 利益率 ⇒ 8.9%
  • 総資産回転率 ⇒ 0.33
  • 財務レバレッジ ⇒ 4.41
相談者

総資産回転率が低い一方、財務レバレッジが大きくなっていますね。

会計士

そうですね。金融事業における多額の負債の影響がここにも出ているようです。なお、同業他社の数字は以下のとおりです。

任天堂
  • 利益率 ⇒ 28.2%
  • 総資産回転率 ⇒ 0.66
  • 財務レバレッジ ⇒ 1.30
パナソニック
  • 利益率 ⇒ 3.5%
  • 総資産回転率 ⇒ 0.99
  • 財務レバレッジ ⇒ 2.58
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その他のデュポンシステムの事例については、以下の記事をあわせてご参照ください。

株価分析

株価分解

会計士

まずは、2022年3月時点における株価の構成要素分解をしていきます。

計算式

「株価」は、以下の式で計算することができます。
株価 = PER × EPS(一株あたり純利益)

PBR

会計士

直近(7/22時点)のyahooファイナンスにおけるPBRは「2.08」となっています。

PBRの計算式

「PBR」は、以下の式で計算することができます。
PBR(株価純資産倍率)= 株価÷1株あたりの株主資本

PER

会計士

直近(7/22時点)のyahooファイナンスにおけるPERは「17.92」となっています。

PERの計算式

「PER」は、以下の式で計算することができます。
PER(株価収益率)=株価÷1株あたりの利益

相談者

PBR、PERともに目安となる水準を上回っていますね。

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本記事のまとめ
  • 2022年3月期より「IFRS」を採用しているため、期間比較を行う際には留意が必要である(初度適用注記における「調整表」を参照する必要がある)
  • 非常に幅広い事業に展開しており、主力の「ゲーム&ネットワークサービス」以外の事業についても売上規模が1兆円近いビジネスとなっている
  • 金融事業に展開しているため、BSを見ると負債が大きくなっているが、これらの影響を除くと安全性、収益性の観点からは大きな問題はないと考えられる

「決算書」ってどこで見れるの?

上場している会社の決算書は以下のページから見ることができます。

  1. 会社のHP
  2. EDINET

①の会社のHPから見るときは「IR情報」というページ見れることが多いです。その他「決算情報」等会社によってHPの構成や呼び方は違いますが、これらのキーワードで簡単に見つかると思います。
②の「EDINET」は、金融庁のページです。「書類検索」→「会社名を検索」すると、各社の決算書類を見ることができます(以下にリンクを張っておきます)。

(EDINET) https://disclosure.edinet-fsa.go.jp/

非上場(上場していない)会社の決算書は、株主にならないと見れないケースも多いです。株主になった場合は、株主総会の招集通知に決算書が添付されていますので、ここから見ることができます。