以下の記事でも「セグメント情報」について、触れていますので、あわせてご参照ください。
「セグメント情報」は、各事業ごとに決算数値を開示する項目でしたね。
そうですね。今回分析する「楽天グループ」のように事業を多角的に行っている企業の決算書を分析するにあたっては、この「セグメント情報」まで掘り下げて分析することが重要です。
Contents
連結ベースでの分析
まずは、全社的な分析を実施するために連結ベースの数値を見ていきましょう。
なお、連結ベースの数字を見るにあたっては「有価証券報告書(2020年12月末)」を参考に分析を進めていきます。
「有価証券報告書」の読み方については、以下の記事もあわせてご参照ください。
まず、売上についてですが、2016年が約7,800億円であったのに対して、2020年は約1兆4,500億円となっており、この5年間で少しずつ増益した結果、2倍近くの数字になっていることが分かります。
一方、純利益については、2018年が最も大きい約1,400億円の利益であったのに対して、2020年は約1,100億円の損失となっています。
売上が順調に増えているにもかかわらず、利益が少なくなっているんですね。しかも直近では損失となっているんですか。収益性が落ちているということは経営の効率が悪くなっているのでしょうか。
全社的に見るとそのような傾向となっているのですが、セグメント単位(事業単位)で分析をすると、より実態が見えてきます。次の章で見ていきましょう。
セグメントごとの分析
セグメント情報を見ると、以下のとおり「インターネットサービス事業」「フィンテック事業」「モバイル事業」のそれぞれの売上、利益が開示されています。
それぞれの事業の概要については、以下の記載を見るとイメージが湧くと思いますが、いわゆるECサイト系が「インターネットサービス」、楽天カード、銀行、証券等が「フィンテック」、携帯事業や電子書籍サービス(これは意外でしたが)が「モバイル事業」に含まれています。
セグメントごとの売上や利益については、「主要な経営指標の推移」のように5年分は出ていないのでしょうか。
そうですね。いわゆる決算情報は当期と前期の2期間を開示することが一般的で、5年分の数字はここでは開示されていません。
今回は、過去の有価証券報告書を基に5年分の数字を私の方で拾っているので、その数字をベースに分析を進めました。
インターネットサービス事業
まずは、主たる事業である「インターネットサービス事業」から見ていきます。
売上が堅調に増加している一方、利益については、2020年に下落しており、全社的な分析と同じような結果となっています。
もう少し詳細に分析するために、同年の第2Q(1月~6月)の「四半期報告書」を見てみると、上期の段階では赤字となっていたことがわかります。新型コロナウイルスの影響によって、旅行事業、スポーツ事業からの損失が生じていたのではないかと推測されます。
なるほど。下期で挽回したものの、上期はコロナの赤字の影響があったということですね。
フィンテック事業
次に「フィンテック事業」ですが、こちらは売上、利益ともに堅調に推移していることがわかります。今期に限って言うと、主要なサービスである「インターネットサービス事業」よりも利益が大きくなっており、楽天グループを支えていることがわかります。
「フィンテック事業」は成長を続けており、「インターネットサービス事業」とあわせると、あわせて1,200億円程度の利益をあげていることがわかります。
ということは「モバイル事業」の影響で全社的には損失となっているということですね。。
モバイル事業
最後に「モバイル事業」ですが、新規セグメントとして開示された2019年以降の数字を記載していますので、2016年~2018年は数字なしとなっています。
モバイル事業は、立ち上げのフェーズということもあり、2期連続で赤字となっています。先行投資が必要な事業ということもあり、2020年度は大きく損失が膨らんでいます。
なるほど。他の事業の利益を食いつぶすくらい大きな損失が出ているということですね。先行投資なので仕方ないとは思いますが。
そうですね。赤字になっているから悪いということではなく、経営計画との比較や、他の指標(契約件数等)を見ることで、モバイル事業が順調に進んでいるのか、といった点を見ることができます。
特に事業の立ち上げの段階にある企業や事業については、利益だけではなく、別の角度から分析を進めることも重要です。
なお、セグメント損益の合計とPLの利益は完全に一致はしません。やや難易度が高い話ですが、内部取引等の調整が入るためです(以下ご参照)。
四半期報告書による分析
セグメント情報は、有価証券報告書だけでなく、四半期ごとに開示される「四半期報告書」でも開示がされています。
直近の数字である2021年12月期の3Q決算(9末)の数字もあわせて見ていきましょう。
以下、第三四半期決算(1月~9月分の数値)のため、9か月分の数字となりますので、比較分析を行う際にはご留意ください。
「四半期報告書」については、以下の記事もあわせてご参照ください。
インターネットサービス事業
2020年はコロナによるダメージで利益が大きく落ち込んでいましたが、今期は3Q時点で約830億円の利益となっており、順調に回復してきていることがわかります。
フィンテック事業
こちらは前年からの大きな増減はなく、安定して収益・利益を生み出していることがわかります。
モバイル事業
引き続き投資フェーズということで、赤字が拡大していることがわかります。
なるほど。セグメント情報は四半期単位で開示されているため、3か月単位で最新の事業ごとの状況を把握することができるんですね。
当ページでは決算書の読み方に関する基本的な内容を解説していますが、より専門的な目線で分析をしたい方は専門書を読むこともおススメします。
以下のページでおススメ書籍を紹介していますので、興味が出てきた方は公認会計士試験の受験も検討してみてはいかがでしょうか。
「シカパス」様HPより
(私も一部の記事を監修させていただいております)
今回は「楽天グループ」の決算書分析をしていきたいと思います。
「セグメント情報」に着目して分析をしますので、本記事を通じて「セグメント情報」に関する理解を深めていただければ幸いです。