(実践編)「トリドールHD(丸亀製麺)」の決算書分析_2022.3 ~有価証券報告書を読んでみる⑫~
【難易度★★★☆☆】

会計士

今回は、丸亀製麺で有名な「トリドールHD」の決算書を分析していきます。

相談者

丸亀製麺は、店舗で打ちたての麺が食べられるというのが非常にうれしいですよね。

会計士

そうですね。セントラルキッチンを持たずに、店舗で粉から麺を打つことで顧客に「食の感動体験」を提供するというのが会社のスローガンとなっています

(2022年3月期 トリドールHD「有価証券報告書」より抜粋)
相談者

なるほど。たしかにいつもお店に足を運ぶのが楽しみです。

TOKIOとコラボした「トマたまカレーうどん」もとても美味しかったです。

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主要な経営指標の推移

会計士

まずは、有価証券報告書の「主要な経営指標の推移」を見て、会社の全般的な経営状況を把握していきましょう。全体像を把握してから、徐々に細かい注記情報等に深堀りしていく読み方がおすすめです

(2022年3月期 トリドールHD「有価証券報告書」より抜粋)
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「主要な経営指標の推移」については、以下の記事もあわせてご参照ください。

会計士

主要な指標である「売上高(売上収益)」「当期純利益」については、グラフを作成してみましたので、あわせて見てみましょう(単位:百万円)。

相談者

売上は比較的堅調に推移していますが、利益は安定しないようですね。去年は赤字になっています。

会計士

そうですね。コロナウイルスによる影響を大きく受けて、昨年は赤字となったようです。

なお、今期は黒字となっていますが、政府からの給付金による恩恵が非常に大きい点は分析をするうえで留意する必要があります(今期は約128億円の収入)。

(2022年3月期 トリドールHD「有価証券報告書」より抜粋)
相談者

なるほど。利益のほとんどが補助金による恩恵という状況なんですね。

会計士

そうですね。コロナ禍からの回復後の決算も今後の動向としてしっかりと見ていく必要がありそうです

連結決算書

会計士

次に「BS」「PL」「CF計算書」という3つの主要な決算書を見ていきましょう。

以下、いずれも「連結ベース」で分析を進めていきます。

連結BS

会計士

まずは「BS」から見ていきます。後述しますが、流動比率や自己資本比率といった指標とあわせて見ていくと、会社の状況をより把握することができます。ここではBSの概況だけ見ておきます。

相談者

固定資産の割合が比較的大きいですね。

会計士

そうですね。なかでも「使用権資産」の割合が大きく、約800億円ほどの金額となっています。

店舗のテナント契約が多いため、「IFRS16号(リース)」の適用によって大きく計上されているものです

相談者

なるほど。なんだか専門的な話に入っていきましたね。。

会計士

詳細な内容については、以下の記事を読んでいただけるとさらに理解が進みますが、ざっくりテナント契約の店舗が資産計上されていると理解いただければOKです

連結PL

会計士

次に「PL」を見ていきます。こちらも後述しますが、利益率、ROA、ROEといった指標とあわせて見ていくと、会社の状況をより把握することができます。ここではPLの概況だけ見ておきます。

相談者

やはり利益の中身を見ると、給付金による影響が非常に大きいようですね。

会計士

そうですね。イレギュラーな事象ですので、来期以降の業績にも注目していく必要がありそうです

助成金による収入

みなさんご存じかと思いますが、コロナ禍による影響を大きく受けた事業者や、時短営業等への協力を行った事業者に対して、政府から給付金が支給されています。

トリドールHDでも約128億ほど計上されているほか、外食産業に属する多くの企業が給付金を受け取っています。そのため、PLの利益率等を分析する際には、今期の数字が給付金を含んでいるものであるという点に留意して分析を進めることをおススメします

相談者

コロナ禍を機にテイクアウトサービスを開始する等、新たな販売形態も出てきましたよね。今後の動向に注目です。

連結CF

会計士

最後に「CF計算書」を見ていきます。営業CFがプラスとなっており、投資CF、財務CFがそれぞれマイナスとなっています

相談者

投資CF、財務CFと比べると、営業CFが圧倒的にプラスとなっていますね。

会計士

そうですね。ここも営業CFについては「給付金の影響」が大きいのですが、一方で投資CFや財務CFについて、過去の水準と比べて今期は控えめのようですね

以下の分類でいうと「優良型」に該当しますので、大きな問題はなさそうです。

注記情報

会計士

もう少し深堀りをするために「セグメント情報」「収益の分解」といった注記情報についても見ていきましょう。

セグメント情報

会計士

トリドールHDは、「丸亀製麺」「海外事業」の2つの事業別に開示をしています

矢印
(2022年3月期 トリドールHD「有価証券報告書」より抜粋)
相談者

海外事業の売上が伸びているようですね。

会計士

そうですね。約125%増(310M ⇒ 410M)となっています

ハワイのホノルル店でも行列が絶えないほど、海外でも丸亀製麺は人気があるようですね。

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「セグメント情報」については、以下の記事もあわせてご参照ください。

セグメント情報

収益の分解

会計士

トリドールHDは、セグメント情報よりも細かい収益の分解分析は行っていません

(2022年3月期 トリドールHD「有価証券報告書」より抜粋)
相談者

なるほど。セグメント情報における分解情報で十分ということなんですね。

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指標分析

会計士

ここからは安全性や収益性といった様々な指標を見ながら、決算書の分析をさらに進めていきます。まずは「安全性」の指標を見ていきます。

安全性分析

流動比率

会計士

トリドールHDの「流動比率」は120.5%と目安の100%を上回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。

同業他社
  • 吉野家HD ⇒ 154.4%
  • 日本マクドナルドHD ⇒ 175.5%

以下の決算情報より計算しています(以下同)。

  • 吉野家HD:2022年2月期
  • 日本マクドナルドHD:2021年12月期

自己資本比率

会計士

トリドールHDの「自己資本比率」は25.8%と目安の50%を下回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。

同業他社
  • 吉野家HD ⇒ 42.9%
  • 日本マクドナルドHD ⇒ 74.7%
相談者

他社と比べて負債が大きいのが気になりますね。

会計士

実は、ここでも「IFRS16号(リース)」適用の影響が出ています。

吉野家、日本マクドナルドが、「日本基準」を採用しているのに対して、トリドールHDのみが「IFRS」を採用しているため、大きく影響を受けています

相談者

なるほど。IFRS16号によって固定資産(使用権資産)が増えるだけでなく、「リース負債」も同時に計上されているんですね。

会計士

そうですね。その分、日本基準と比べて負債が膨らんで見えるということです。

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収益性分析

会計士

次に「収益性」の指標を見ていきます。

利益率

トリドールHD
  • 売上総利益率 ⇒ 75.1%
  • 営業利益率  ⇒ 9.3%
  • 税引前利益率 ⇒ 9.1%
  • 当期純利益率 ⇒ 5.9%
会計士

なお、同業他社の数字は以下のとおりとなっています。

吉野家HD
  • 売上総利益率 ⇒ 66.3%
  • 営業利益率  ⇒ 1.5%
  • 税引前利益率 ⇒ 8.7%
  • 当期純利益率 ⇒ 5.3%
日本マクドナルドHD
  • 売上総利益率 ⇒ 20.0%
  • 営業利益率  ⇒ 10.9%
  • 税引前利益率 ⇒ 10.3%
  • 当期純利益率 ⇒ 7.5%

吉野家HDも約131億円の給付金収入の計上があります。

(吉野家HDの規模)売上:約1,500億、営業利益約23億

相談者

日本マクドナルドHDは、給付金の影響があまり大きくないようですね。

会計士

そうですね。もともとテイクアウト販売を行っていたため、他の2社と比べて大きな打撃がなかったのかもしれません。

ROA

会計士

トリドールHDの「ROA」は4.0%と目安の5%を下回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。

同業他社
  • 吉野家HD ⇒ 6.6%
  • 日本マクドナルドHD ⇒ 9.7%

ROE

会計士

トリドールHDの「ROE」は17.7%と目安の8%を上回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。

同業他社
  • 吉野家HD ⇒ 18.5%
  • 日本マクドナルドHD ⇒ 13.1%
相談者

ROAは低い一方、ROEは高い水準になっていますね。

会計士

ROAは、先ほどのIFRS16号の影響でBS残高が大きくなったことが理由で低くなっているようですね。

デュポンシステムによる分解

会計士

ここからはROEをさらに分解して分析を進めていきます。

トリドールHD
  • 利益率 ⇒ 5.9%
  • 総資産回転率 ⇒ 0.68
  • 財務レバレッジ ⇒ 4.44
相談者

回転率が低くなっているのも「IFRS16号(リース)」の影響ですね。

会計士

そうですね。会計基準の変更によって決算数値が変わることは、通常そこまで多くないのですが、「IFRS16号(リース)」に関しては、非常にインパクトの大きな会計基準の変更となっています

吉野家HD
  • 利益率 ⇒ 5.3%
  • 総資産回転率 ⇒ 1.26%
  • 財務レバレッジ ⇒ 2.78
日本マクドナルドHD
  • 利益率 ⇒ 7.5%
  • 総資産回転率 ⇒ 1.29
  • 財務レバレッジ ⇒ 1.35
相談者

たしかに「総資産回転率」や「財務レバレッジ」については、会計基準の差による影響が出ていそうですね。

株価分析

株価分解

会計士

まずは、2022年3月時点における株価の構成要素分解をしていきます。

計算式

「株価」は、以下の式で計算することができます。
株価 = PER × EPS(一株あたり純利益)

PBR

会計士

最後に直近の「株価指標」を確認して分析を終了しましょう。

直近(9/23時点)の楽天証券におけるPBRは「4.35」となっています。

PBRの計算式

「PBR」は、以下の式で計算することができます。
PBR(株価純資産倍率)= 株価÷1株あたりの株主資本

PER

会計士

直近(9/23時点)の楽天証券におけるPERは「34.21」となっています。

PERの計算式

「PER」は、以下の式で計算することができます。
PER(株価収益率)=株価÷1株あたりの利益

相談者

PBR、PERともに目安となる水準を上回っていますね。やや割高な水準なようです。

あわせて読みたい

先日「2023年3月期 第1四半期」の決算発表もされましたので、最新の決算数値もあわせて読んでみましょう。

トリドールHD社HP:IR資料室
https://www.toridoll.com/ir/library/valuable.html

本記事のまとめ
  • 「主要な経営指標の推移」⇒「BS」「PL」「CF」⇒「注記情報」⇒「指標分析」といったように、まずはハイレベルな情報から読み始め、徐々に細かい注記情報等を見ていくのがおすすめ
  • コロナ禍の影響を大きく受け、昨年は赤字となっていた。今期は黒字となっているが、利益の大部分が給付金による恩恵であることから、今後の動向にも留意が必要である
  • テナント契約が多いため、IFRS16号(リース)適用によるBS影響が非常に大きくなっている。BS分析やROA等の分析の差異には留意する必要がある

「決算書」ってどこで見れるの?

上場している会社の決算書は以下のページから見ることができます。

  1. 会社のHP
  2. EDINET

①の会社のHPから見るときは「IR情報」というページ見れることが多いです。その他「決算情報」等会社によってHPの構成や呼び方は違いますが、これらのキーワードで簡単に見つかると思います。
②の「EDINET」は、金融庁のページです。「書類検索」→「会社名を検索」すると、各社の決算書類を見ることができます(以下にリンクを張っておきます)。

(EDINET) https://disclosure.edinet-fsa.go.jp/

非上場(上場していない)会社の決算書は、株主にならないと見れないケースも多いです。株主になった場合は、株主総会の招集通知に決算書が添付されていますので、ここから見ることができます。