「デュポンシステム」とは?
「デュポンシステム」ってなんでしたっけ。。
「デュポンシステム」について、簡単におさらいをしておきましょう。
「ROE」「デュポンシステム」の詳細については、以下の記事もあわせてご参照ください。
「デュポンシステム」とは、「ROE」を以下の式に分解して分析を行う手法のことをいいます。
ROE= 売上高利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
具体的な数値に分解すると、以下のようになります。
ROE=(当期純利益/売上高)×(売上高/総資産)×(総資産/自己資本)
いろんな要素が式に含まれていてまだピンとこないですね。
式を見ると、わかりづらいのですが、「売上高」と「総資産」という要素を間に入れることで、3つの視点から「ROE」を分解して見れるようになっているんです。「売上高」と「総資産」を相殺すると、「ROE」の式である「純利益÷自己資本」に戻ります。
なるほど。「売上高利益率」「総資産回転率」「財務レバレッジ」とはそれぞれどんな意味をもつのでしょうか。
まず「売上高利益率」ですが、「当期純利益率÷売上高」で計算され、売上に対してどの程度利益をあげているかをあらわせす指標です。
いかに効率的な経営を行っているかを分析することができます。高ければ高いほど収益性が高いことを意味し、「ROE」を引き上げる要因になります。
次に「総資産回転率」ですが、「売上高÷総資産」で計算され、いかに効率よく資産を利用して売り上げを上げているかをあらわす指標です。
高ければ高いほど資産を効率よく使用していることを意味し、「ROE」を引き上げる要因になります。
最後に「財務レバレッジ」ですが、「総資産÷自己資本」で計算され、資金調達のうち他人資本(借金)が占める比率をあらわす指標です。
高ければ高いほど借金をしている割合が多いことを意味し、「ROE」を引き上げる要因になります。
事例による分析
ここからは事例を見ながら理解を深めていきましょう。まずは、清掃用品・清掃サービスで有名な「ダスキン社」から見ていきます。
以下のデータをもとに分析を実施しています。単位は、いずれも「百万円」です。
- ダスキン:2020年3月期、2021年3月期「有価証券報告書」を参照
- ENEOS:2020年3月期、2021年3月期「有価証券報告書」を参照
- 三菱商事:2020年3月期、2021年3月期「有価証券報告書」を参照
- ソフトバンク:2020年3月期、2021年3月期「有価証券報告書」を参照
- メルカリ:2020年6月期、2021年6月期「有価証券報告書」を参照
ダスキン
- 売上高利益率:3.51%
- 総資産回転率:0.84
- 財務レバレッジ:1.30
⇒ROE:3.83%
小数点以下第三位は四捨五入しております(以下同)。
「総資産回転率」「財務レバレッジ」の数字がおおむね「1倍」に近い数字となっており、「売上高利益率≒ROE」といった図式になっています。
なるほど。利益率がROEに影響する一番大きな要因となっているんですね。
そうですね。なお、翌年度(2021年)の数値を見てみると「売上高利益率」以外は同水準で、「売上高利益率」が下がった分だけROEが下がっているような状況です。
- 売上高利益率:1.83%
- 総資産回転率:0.82
- 財務レバレッジ:1.30
⇒ROE:1.95%
この事例のように「売上高利益率」がROEの一番の変動要因となることが多いです。
総資産や売上といった数字は大幅に変動することがない一方で「利益」は年によって変動する幅が大きくなることが多いためです。
ENEOS
次に、ガソリンスタンドで有名な「ENEOS」社の数字を見ていきましょう。
- 売上高利益率:-1.88%
- 総資産回転率:1.21
- 財務レバレッジ:3.28
⇒ROE:-7.47%
ダスキン社と違い「財務レバレッジ」の影響が大きいようですね。
そうですね。負債を積極的に利用していることから「財務レバレッジ効果」が働いています。利益が出ているときはROEを引き上げる効果がありますが、逆に赤字が出ている場合にはマイナス幅を大きくしてしまう効果もあります。
なお、翌年度(2021年度)の数字を見てみると、黒字となった結果「財務レバレッジ」によってROEが引き上げられています。
- 売上高利益率:1.51%
- 総資産回転率:0.94
- 財務レバレッジ:3.47
⇒ROE:4.92%
ダスキン社よりも利益率は小さいですが、レバレッジ効果によってROE自体は大きくなっているんですね。
「財務レバレッジ」については、以下の記事もあわせてご参照ください。
三菱商事
次に「三菱商事」ですが、財務レバレッジの水準がENEOS同様「3倍」を越える水準となっています。
- 売上高利益率:3.62%
- 総資産回転率:0.85
- 財務レバレッジ:3.17
⇒ROE:9.80%
利益率が「3-4%程度」ですが、レバレッジ効果によってROEが「約10倍」と高くなっていますね。
そうですね。翌年(2021年度)の数字を見てみると、利益率以外はあまり変わらないにもかかわらず、ROEが「約3%」に落ち込んでいます。
- 売上高利益率:1.33%
- 総資産回転率:0.70
- 財務レバレッジ:3.38
⇒ROE:3.18%
なるほど。「レバレッジ」がかかっている場合(負債の利用割合が大きい場合)、利益率が下がると、ROEに与える影響も大きくなりますね。
ソフトバンク
次に、ROEが「30%超」という非常に高い水準にある「ソフトバンク」のROEを分解してみましょう。
- 売上高利益率:9.73%
- 総資産回転率:0.55
- 財務レバレッジ:7.14
⇒ROE:37.87%
いままで見てきた会社よりも利益率や財務レバレッジが非常に大きいですね。一方で、総資産の回転率は低い水準となっているようです。
そうですね。もしかすると資産が効率的に利用できていない部分があるのかもしれません。
「BS」の内訳を見てみると大まかな原因を掴めるので、在庫や債権(売掛金)といった資産の内訳を見てみましょう。
「BS」の内訳については、以下の記事もあわせてご参照ください。
- 売上高利益率:9.43%
- 総資産回転率:0.47
- 財務レバレッジ:8.76
⇒ROE:39.10%
翌年(2021年度)の水準を見ても同じように資産の回転率が低く、他の水準が大きくなっていますね。
そうですね。財務レバレッジはさらに大きくなり、負債を積極的に利用していることがわかります。
メルカリ
最後に、スタートアップ企業で急成長中の「メルカリ」を見ていきます。
- 売上高利益率:-29.86%
- 総資産回転率:0.42
- 財務レバレッジ:4.22
⇒ROE:-53.13%
2020年はまだ赤字フェーズなんですね。利益率も回転率も低くなっていますね。
そうですね。翌年(2021年度)は、黒字化したこともあり、大幅にROEが改善しています。
- 売上高利益率:5.39%
- 総資産回転率:0.46
- 財務レバレッジ:6.24
⇒ROE:15.49%
利益率が大きく改善され、レバレッジもさらに大きくなっていますね。
そうですね。売上や総資産も大幅に増加しており、スタートアップでは様々な要因でROEが増減することがわかるような例となっています。
「決算書」ってどこで見れるの?
上場している会社の決算書は以下のページから見ることができます。
- 会社のHP
- EDINET
①の会社のHPから見るときは「IR情報」というページ見れることが多いです。その他「決算情報」等会社によってHPの構成や呼び方は違いますが、これらのキーワードで簡単に見つかると思います。
②の「EDINET」は、金融庁のページです。「書類検索」→「会社名を検索」すると、各社の決算書類を見ることができます(以下にリンクを張っておきます)。
(EDINET) https://disclosure.edinet-fsa.go.jp/
非上場(上場していない)会社の決算書は、株主にならないと見れないケースも多いです。株主になった場合は、株主総会の招集通知に決算書が添付されていますので、ここから見ることができます。
今回は「デュポンシステム」によるROE分析について、事例を見ながら理解を深めていこうと思います。