電気自動車が流行っているので、石油の需要が減っているという話を聞いたことがあります。
そうですね。そのため、ENEOSホールディングスでは、石油だけにとらわれない「アジアを代表するエネルギー・素材企業」として2040年の姿を描いています。
従来の事業を継続するだけでなく、将来を見据えた再生エネルギー等の分野にも積極的に投資を行っており、今後の動向に注目の企業の1つです。
2040年ですか!未来を見据えて、着々と動いているということですね。
Contents
主要な経営指標の推移
まずは、有価証券報告書の「主要な経営指標の推移」を見て、会社の全般的な経営状況を把握していきましょう。全体像を把握してから、徐々に細かい注記情報等に深堀りしていく読み方がおすすめです。
主要な指標である「売上高(売上収益)」「当期純利益」については、グラフを作成してみましたので、あわせて見てみましょう(単位:百万円)。
利益水準に大きくブレがあるようですね。また、今期は利益が大きいにもかかわらず、例年と比べて営業CFが少ないようです。
そうですね。原油価格等の外部環境によって業績が大きく影響を受けることがわかります。
また、利益と営業CFが相関しないのは「棚卸資産(在庫)」の保有量による影響が大きいようです(以下の赤枠分が大きな増減となっています)。
「主要な経営指標の推移」については、以下の記事もあわせてご参照ください。
連結決算書
次に「BS」「PL」「CF計算書」という3つの主要な決算書を見ていきましょう。
以下、いずれも「連結ベース」で分析を進めていきます。
連結BS
まずは「BS」から見ていきます。後述しますが、流動比率や自己資本比率といった指標とあわせて見ていくと、会社の状況をより把握することができます。ここではBSの概況だけ見ておきます。
負債の割合がやや高いようですね。
将来に向けた積極投資を行っているため、負債の水準が高くなっているようですね。今後はこの借金が重荷となってくる可能性もあるので、安全性の観点からは少し留意が必要です。
連結PL
次に「PL」を見ていきます。こちらも後述しますが、利益率、ROA、ROEといった指標とあわせて見ていくと、会社の状況をより把握することができます。ここではPLの概況だけ見ておきます。
最終的な利益率が「4.9%」となっていて、PLを見る限りで大きな問題はなさそうですね。
そうですね。ただ、今期は原油価格の上昇に伴い「在庫影響による利益:3,703億円(税前)」が計上されているようですので留意が必要です。
(以下、株主総会招集通知より記載を抜粋)
石油元売り会社には70日間分の原油・石油製品の備蓄義務が課されており、常に多くの在庫を保有しています。2021年度は、原油価格が上昇したため、期首に保有していた原油等の在庫が相対的に割安となりました。この安値の在庫が原価に染み出すことにより「在庫影響」として利益が計上されています。
なお、ENEOS社では、外部要因である「在庫影響」は、実質的な当期の業績を見るうえでは除くべきと考え、「在庫影響を除いた利益」を重視すると宣言しています。
なるほど。これを加味すると、利益水準はあまり高いとは言えなさそうですね。。
連結CF
最後に「CF計算書」を見ていきます。営業CF、財務CFがプラスとなっており、投資CFがマイナスとなっています。
財務CFがプラスということは、追加で借金をしているということですね。
そうですね。一方、投資CFを見ると、大きく投資を行っていることもわかります。
将来のエネルギー事業に対して積極的な投資を行っているようですね。以下の図で言うと「積極投資」に分類されます。
ENEOSのような伝統的な大企業でもこのような積極投資を行っているんですね。
経営環境の変化に対応するべく、将来に向けた積極投資を行っているという感じですね。この積極的な投資が成功するのかどうかが今後のポイントですね。
「決算書の基礎」については、以下の記事もあわせてご参照ください。
注記情報
もう少し深堀りをするために「セグメント情報」「収益の分解」といった注記情報についても見ていきましょう。
セグメント情報
ENEOSホールディングスは、「エネルギー」「石油・天然ガス開発」「金属」の3つの事業別に開示をしています。
圧倒的に大きいのは「エネルギー事業」ですね。その他のセグメントについても利益が増大している傾向にあるようです。
「セグメント情報」については、以下の記事もあわせてご参照ください。
収益の分解
ENEOSホールディングスは3つの事業をさらに「地域別」の軸で細分化して収益の開示を行っています。
国内に占める割合が非常に大きいことがわかりますね。
「収益の分解」については、以下の記事もあわせてご参照ください。
「新収益基準」については、以下の記事をあわせてご参照ください。
指標分析
ここからは安全性や収益性といった様々な指標を見ながら、決算書の分析をさらに進めていきます。まずは「安全性」の指標を見ていきます。
安全性分析
流動比率
ENEOSホールディングスの「流動比率」は131.2%と目安の100%を上回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。
- 出光興産 ⇒ 114.9%
- コスモエネルギーHD ⇒ 90.9%
自己資本比率
ENEOSホールディングスの「自己資本比率」は29.7%と目安の50%を下回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。
- 出光興産 ⇒ 30.7%
- コスモエネルギーHD ⇒ 23.5%
「安全性分析」については、以下の記事もあわせてご参照ください。
自己資本比率が低いので、安全性には少し留意が必要そうですね。
収益性分析
次に「収益性」の指標を見ていきます。
利益率
- 売上総利益率 ⇒ 14.5%
- 営業利益率 ⇒ 7.2%
- 税引前利益率 ⇒ 7.1%
- 当期純利益率 ⇒ 4.9%
なお、同業他社の数字は以下のとおりとなっています(2022年3月期の決算短信より計算しています)。
- 売上総利益率 ⇒ 13.2%
- 営業利益率 ⇒ 6.5%
- 税引前利益率 ⇒ 5.8%
- 当期純利益率 ⇒ 4.2%
- 売上総利益率 ⇒ 15.5%
- 営業利益率 ⇒ 9.6%
- 税引前利益率 ⇒ 8.7%
- 当期純利益率 ⇒ 5.7%
コスモが若干高いですが、同業他社と概ね水準は変わらなそうです。
ROA
ENEOSホールディングスの「ROA」は6.1%と目安の5%を上回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。
- 出光興産 ⇒ 6.5%
- コスモエネルギーHD ⇒ 7.6%
ROE
ENEOSホールディングスの「ROE」は20.7%と目安の8%を上回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。
- 出光興産 ⇒ 21.8%
- コスモエネルギーHD ⇒ 35.6%
ROA、ROEの水準はいずれも目安を上回っていますし、悪い水準ではなさそうですね。ROEは「20.7%」と高い水準ですね。
そうですね。ただ、利益水準にブレがあることや、財務レバレッジによって高い水準となっていることから今後の動向には注意が必要です。
PL分析でも記載のとおり、今期は「在庫影響」による利益が含まれますので、少し割り引いて収益性を見ると良いかと思います(なお、他社の利益にも在庫影響が含まれている可能性があります)。
デュポンシステムによる分解
ここからはROEをさらに分解して分析を進めていきます。
- 利益率 ⇒ 4.9%
- 総資産回転率 ⇒ 1.23
- 財務レバレッジ ⇒ 3.41
財務レバレッジがかかっているというのはこのことですね。負債の割合が大きくなった結果、財務レバレッジが「3.41倍」になっているんですね。
そうですね。他社の水準を見ても業界全体的に財務レバレッジが高い水準にあるようです。
- 利益率 ⇒ 4.2%
- 総資産回転率 ⇒ 1.56%
- 財務レバレッジ ⇒ 4.34
- 利益率 ⇒ 5.7%
- 総資産回転率 ⇒ 1.34
- 財務レバレッジ ⇒ 4.67
内訳としては同業他社も同じような数字となっていますね。
「デュポンシステム」については、以下の記事をあわせてご参照ください。
株価分析
株価分解
まずは、2022年3月時点における株価の構成要素分解をしていきます。
「株価」は、以下の式で計算することができます。
株価 = PER × EPS(一株あたり純利益)
PBR
最後に直近の「株価指標」を確認して分析を終了しましょう。
直近(8/19時点)のyahooファイナンスにおけるPBRは「0.53」となっています。
「PBR」は、以下の式で計算することができます。
PBR(株価純資産倍率)= 株価÷1株あたりの株主資本
PER
直近(8/19時点)のyahooファイナンスにおけるPERは「9.61」となっています。
「PER」は、以下の式で計算することができます。
PER(株価収益率)=株価÷1株あたりの利益
PBR、PERともに目安となる水準を下回っていますね。業界の先行きが不安視されているため、株価は割安となっているようですね。
「PBR」「PER」については、以下の記事もあわせてご参照ください。
先日「2023年3月期 第1四半期」の決算発表もされましたので、最新の決算数値もあわせて読んでみましょう。
ENEOS社HP:IR資料室
https://www.hd.eneos.co.jp/ir/library/
「決算書」ってどこで見れるの?
上場している会社の決算書は以下のページから見ることができます。
- 会社のHP
- EDINET
①の会社のHPから見るときは「IR情報」というページ見れることが多いです。その他「決算情報」等会社によってHPの構成や呼び方は違いますが、これらのキーワードで簡単に見つかると思います。
②の「EDINET」は、金融庁のページです。「書類検索」→「会社名を検索」すると、各社の決算書類を見ることができます(以下にリンクを張っておきます)。
(EDINET) https://disclosure.edinet-fsa.go.jp/
非上場(上場していない)会社の決算書は、株主にならないと見れないケースも多いです。株主になった場合は、株主総会の招集通知に決算書が添付されていますので、ここから見ることができます。
今回は、石油元売りの最大手「ENEOSホールディングス」の決算書を分析していきます。