(図解)日本企業における「IFRS任意適用の状況」_2022.3月期決算会社まで ~東証資料より最新動向を探る~
【難易度★★★☆☆】

会計士

今回は、日本企業における「IFRS適用状況」について解説を進めていきます。

毎年、東証(JPX)より公表される分析資料に基づいて、最新の動向を見ていきましょう

相談者

決算書分析をしていると、IFRSを適用している会社が多いように感じるのですが、実際どれくらいの企業が適用しているのか気になりますね。

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会計士

今回の記事では、東証HPで公表されている下記スライド資料を引用して解説させていただきます。

以下、東証HP:「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析について≪2022年3月期決算会社まで≫より引用させていただきます。

https://www.jpx.co.jp/news/1020/20220722-01.html

IFRS適用会社数の推移

会計士

まず、分析の前提ですが、2022年6月末時点の東証上場内国企業3,770社を対象とした調査となっています。

東証HP「会計基準の選択に関する基本的な考え方」
会計士

3,770社のうち、IFRS適用済会社が247社、IFRS適用決定会社が12社、IFRS適用予定会社が5社という結果になっています

東証HP「会計基準の選択に関する基本的な考え方」
相談者

思っていたよりも少ないですね。比率でみると「10%未満」ということで、ほとんどの会社がまだ適用していないというのが実態なんですね。

会計士

そうですね。大企業を中心にIFRSを適用を進めていますが、市場全体でみると、IFRSを適用していない会社のほうが圧倒的に多いです

以下の図は、適用会社数の推移ですが、少しずつ適用企業が増えていることがわかります。

東証HP「会計基準の選択に関する基本的な考え方」
相談者

最近では、毎年10~20社程度がIFRSを適用しているような状況ですね。

会計士

そうですね。大企業における導入の波はひと段落しているという状況ですが、最近でも「SONYグループ」や「トヨタ自動車」など、日本を代表する企業がIFRS適用を進めています

IFRS適用企業の時価総額

会計士

ここからは、適用している企業の「数」ではなく、「金額(時価総額ベース)」を見ていきます。

東証HP「会計基準の選択に関する基本的な考え方」
相談者

だいぶ見え方が変わりますね。時価総額ベースで行くと、過半数を超える規模の会社がIFRSを適用済みかIFRS適用を検討しているのですね。

会計士

そうですね。日本を代表するような大きな会社を中心にIFRSを適用しているので、このような結果となっています。

さらに市場区分別(プライム市場、スタンダード市場、グロース市場)に見ると、以下のような割合となっています。

東証HP「会計基準の選択に関する基本的な考え方」
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「上場」「市場区分」については、以下の記事もあわせてご参照ください。

上場
相談者

プライム市場に上場しているような大企業がIFRSを適用しているというのがよくわかりますね。グロース市場の会社も比較的多くIFRSを適用していますね。

会計士

新規上場時からIFRSを適用するようなケースが増えてきていることが要因かと思われます。新たに上場するのであれば、最初から国際基準を使っておこうといった考え方ですね。

相談者

なるほど。もともと日本基準を適用していた会社からすると変更のハードルが高いですが、最初からIFRSを適用するのであれば、少しハードルが下がるということですね。

会計士

そうですね。途中からIFRS適用する場合は、遡及適用や調整表の作成等の実務が煩雑となるので、最初からIFRSを適用するほうが少しハードルが下がります

業種別のIFRS適用状況

会計士

最後に、業種別のIFRS適用状況を見ていきましょう。

スライド資料は文字が細かいので、PCで見ることを推奨します。

医薬品、ゴム製品、輸送用機器、精密機器、情報・通信

東証HP「会計基準の選択に関する基本的な考え方」
相談者

これらは、IFRS適用企業の割合が大きい業種ですね。会社名を見ても日本を代表するような大企業が並んでいますね。

会計士

そうですね。業種によってIFRS適用企業の偏りが出てくるのですが、業種内における主要な会社がIFRSを適用すると「比較可能性」を担保するために他の会社も追随するようなケースが多いということが背景にあります

鉄鋼、卸売業、食料品、石油・石炭製品、電気機器

東証HP「会計基準の選択に関する基本的な考え方」
相談者

こちらも各業種における主要な企業がIFRS適用しているということが特徴として読み取れますね。

会計士

そうですね。以下の記事で分析をしている会社もありますので、あわせて読んでみましょう。

空運業、繊維製品、化学、サービス業、ガラス・土石製品

東証HP「会計基準の選択に関する基本的な考え方」
相談者

空運業を見ると、「日本航空(JAL)」がIFRSを適用しているので、「全日本空輸(ANA)」の動向が気になりますね。

会計士

そうですね。同業他社が適用すると、追随するケースが多いですが、航空業界はコロナの影響を大きく受けているので、導入には慎重になるかもしれないですね。

非鉄金属、機械、小売業、金属製品、その他金融業他

東証HP「会計基準の選択に関する基本的な考え方」
相談者

小売業では、IFRSを適用していない会社もまだまだ多いですね。同業他社の会計基準が異なる場合には、会計基準差の影響も考慮したほうが良さそうです。

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「Food&Life Companies(スシロー)」「トリドールホールディングス(丸亀製麺)」の分析については、以下の記事をあわせてご参照ください。

電気・ガス、建設、保険 / IFRS適用会社が存在しない業種

東証HP「会計基準の選択に関する基本的な考え方」
会計士

銀行業などのIFRS適用のためのハードルが高い(特にIFRS9号)業種では、IFRSの適用が進んでいないことがわかります。

相談者

IFRS9号は、銀行業のような金融機関にとっては非常に影響の大きい会計基準の変更になるんですね。

会計士

毎年公表されるような資料なので、今後も最新動向を把握していきましょう。

本記事のまとめ
  • 東証に上場している3,770社のうち、IFRS適用済みが247社、IFRS適用決定会社が12社、IFRS適用予定会社が5社 ⇒ 適用会社数はまだまだ少ない
  • 時価総額ベースで見ると、IFRSを適用している(または適用予定となっている会社が過半数を超えている ⇒ 大企業を中心にIFRSを適用している
  • 業種別にみると、IFRSを適用している会社が多い業種、少ない業種が分かれる結果となっている ⇒ 他社に追随してIFRSを適用するケースが多い