日本が世界に誇る「ユニクロ」ですね。いつも利用させていただいております。
そうですね。商品をレジBOXに入れると自動で認識してくれるシステムなど、最先端のIT技術を活用しているイメージもありますね。
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主要な経営指標の推移
まずは、有価証券報告書の「主要な経営指標の推移」を見て、会社の全般的な経営状況を把握していきましょう。全体像を把握してから、徐々に細かい注記情報等に深堀りしていく読み方がおすすめです。
「主要な経営指標の推移」については、以下の記事もあわせてご参照ください。
主要な指標である「売上高(売上収益)」「当期純利益」については、グラフを作成してみましたので、あわせて見てみましょう(単位:百万円)。
売上は安定していますが、当期純利益は年度によってやや変動がありそうです。
そうですね。今期に関して言うと、過去5年で一番大きな水準となっており、業績は好調なようですね(2年前と比べると2倍以上の数字になっています)。
連結決算書
次に「BS」「PL」「CF計算書」という3つの主要な決算書を見ていきましょう。
以下、いずれも「連結ベース」で分析を進めていきます。
連結BS
まずは「BS」から見ていきます。後述しますが、流動比率や自己資本比率といった指標とあわせて見ていくと、会社の状況をより把握することができます。ここではBSの概況だけ見ておきます。
流動資産の割合が大きいように見えますね。
そうですね。比較的「キャッシュリッチ」な状況になっていて、流動資産のうち約1.3兆円が現金預金として計上されています。
ファーストリテイリングの総資産のうち、約43%近くが現金預金となっています。
キャッシュリッチであることは、会社の安全性の観点からは望ましいのですが、以下の観点から投資家より批判されることがあります。
- 事業投資へ再分配し、さらなる収益性を追求するべき
- 余剰資金は会社の持ち主である株主に配当として還元すべき
前者は、キャッシュを保有していてもそれ自体は収益を生み出さないため、より収益を生み出せる事業にお金を投資するべきであるという意見です。また、後者についても同じような考え方で、キャッシュとして保有していても収益を生み出さないのであれば、余剰資金は株主に還元すべきであるという意見です。
たしかに、特に意図もなく無駄に手元に資金を残しておくのは非効率なため、上記の意見は正しいと思います。ただし、将来の投資タイミングを見測っており、手元に資金を残している状況であったり、経営環境が不安定な状況であれば、リスクヘッジの観点からキャッシュを保有しておくという戦略もありだと考えられます。
今後のさらなる株主還元(増配、自己株取得)や、大規模な設備投資などに期待ですね。
連結PL
次に「PL」を見ていきます。こちらも後述しますが、利益率、ROA、ROEといった指標とあわせて見ていくと、会社の状況をより把握することができます。ここではPLの概況だけ見ておきます。
営業利益も「12.9%」と高いですし、純利益率も「11.9%」となっているので、大きな問題はなさそうですね。
そうですね。今期は円安による利益への影響も大きいようです。
グローバル企業ということで、輸出が多いこともあり、円安によって大きな恩恵を受けていることがわかります。
連結CF
最後に「CF計算書」を見ていきます。営業CFがプラスとなっており、投資CF、財務CFがそれぞれマイナスとなっています。
円安による為替による影響額が大きいため、今回は為替による変動額も別掲しています。
ここでも為替の影響が大きいようですね。
そうですね。この規模の会社となると、為替の影響で約1,700億円ものキャッシュが増えることになります。
外貨の預金が多いということですね。CFのパターンとしては、営業CFの範囲内で投資活動や財務活動を行っており、健全なパターンに見えますね。
そうですね。以下のCFのパターン的にも「優良型」に該当しますので、大きな問題はなさそうです。
他社の事例と一緒に見ることで、さらに理解が深まります。以下の記事もあわせて読んでみましょう。
注記情報
もう少し深堀りをするために「セグメント情報」「収益の分解」といった注記情報についても見ていきましょう。
セグメント情報
ファーストリテイリングは、「国内ユニクロ」「海外ユニクロ」「ジーユー」「グローバルブランド」といった事業別にセグメント情報の開示をしています。
国内よりも海外のほうが数字が大きくなっていますね。
そうですね。諸外国を含めた数字ということもありますし、特に今期は為替の影響によって大きくなっている可能性があります。
また、会社としても海外事業(特に欧州)の成長に力を入れているようですので、今後の動向にも注目です。
なるほど。海外の地域別の売上情報も気になるところですが、これも有報から読み取れるのでしょうか。
そうですね。「収益の分解」という注記情報にて地域別の売上を開示していますので、あわせて見ていきましょう。
収益の分解
ファーストリテイリングは、「地域別」に収益の分解を開示しています。
海外事業の中でも「グレーターチャイナ」や「アジア・オセアニア」の割合が大きいようですね。
そうですね。欧米では「H&M」「GAP」「ZARA」などの競合も多く、アジアと比べるとシェアがまだ拡大していないようですね。今後の展開に注目です。
さらに「FACT BOOK」というIR資料を見てみると、メンズ、ウィメンズ、キッズ・ベビー等の製品別の売上も開示されていました。
法定開示資料以外にも様々な「IR資料」を公表しているのですね。
「収益の分解」については、以下の記事もあわせてご参照ください。
「IR資料」については、以下の記事もあわせてご参照ください。
指標分析
ここからは安全性や収益性といった様々な指標を見ながら、決算書の分析をさらに進めていきます。まずは「安全性」の指標を見ていきます。
安全性分析
流動比率
ファーストリテイリングの「流動比率」は248.7%と目安の100%を上回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。
- ユナイテッドアローズ ⇒ 151.3%
- しまむら ⇒ 556.0%
自己資本比率
ファーストリテイリングの「自己資本比率」は49.1%と目安の50%を下回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。
- ユナイテッドアローズ ⇒ 50.6%
- しまむら ⇒ 85.8%
「安全性分析」については、以下の記事もあわせてご参照ください。
やや借金の比率が多いようにも見えますが、他社と比べても大きく悪い水準ではなさそうですね。
収益性分析
次に「収益性」の指標を見ていきます。
利益率
- 売上総利益率 ⇒ 52.5%
- 営業利益率 ⇒ 12.9%
- 税引前利益率 ⇒ 18.0%
- 当期純利益率 ⇒ 11.9%
なお、同業他社の数字は以下のとおりとなっています(ユナイテッドアローズ:2022年3月期、しまむら:2022年2月期の有価証券報告書より計算しています)。
- 売上総利益率 ⇒ 49.9%
- 営業利益率 ⇒ 1.4%
- 税引前利益 ⇒ 1.5%
- 当期純利益率 ⇒ 0.6%
- 売上総利益率 ⇒ 34.1%
- 営業利益率 ⇒ 8.5%
- 税引前利益 ⇒ 8.6%
- 当期純利益率 ⇒ 6.1%
他社と比べて利益率は非常に高いようですね。
そうですね。今期は海外事業の為替影響による恩恵も大きいですが、安定したビジネスを展開していることが伺えます。
ROA
ファーストリテイリングの「ROA」は9.6%と目安の5%を上回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。
- ユナイテッドアローズ ⇒ 1.2%
- しまむら ⇒ 7.7%
ROE
ファーストリテイリングの「ROE」は20.4%と目安の8%を上回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。
- ユナイテッドアローズ ⇒ 2.9%
- しまむら ⇒ 9.0%
ROA、ROEの水準はいずれも目安を上回っていますし、他社と比べても悪い水準ではなさそうですね。
デュポンシステムによる分解
ここからはROEをさらに分解して分析を進めていきます。
- 利益率 ⇒ 11.9%
- 総資産回転率 ⇒ 0.81
- 財務レバレッジ ⇒ 2.13
ROEは高い水準にあると思いますが、利益率約12%と高いことが一番の要因となっているようですね。
そうですね。同業他社の数字とも比較して見てみましょう。
- 利益率 ⇒ 0.62%
- 総資産回転率 ⇒ 1.92
- 財務レバレッジ ⇒ 2.41
- 利益率 ⇒ 6.1%
- 総資産回転率 ⇒ 1.26
- 財務レバレッジ ⇒ 1.18
利益率は他社よりかなり高い水準にあるようですが、総資産回転率は他社よりも少し低いようですね。
そうですね。資産効率がやや悪い可能性がありますが、資産回転率が「1未満」となる会社は比較的多いので、そこまで大きな問題はないかと思います。
「デュポンシステム」については、以下の記事をあわせてご参照ください。
株価分析
PBR
最後に直近の「株価指標」を確認して分析を終了しましょう。
直近(12/2時点)の楽天証券におけるPBRは「5.32」となっています。
PER
直近(12/2時点)の楽天証券におけるPERは「36.14」となっています。
PBR、PERともに目安となる水準を上回っていますね。
そうですね。会社に対する将来への期待値が高いことがわかりますね。
「PBR」「PER」については、以下の記事もあわせてご参照ください。
「決算書」ってどこで見れるの?
上場している会社の決算書は以下のページから見ることができます。
- 会社のHP
- EDINET
①の会社のHPから見るときは「IR情報」というページ見れることが多いです。その他「決算情報」等会社によってHPの構成や呼び方は違いますが、これらのキーワードで簡単に見つかると思います。
②の「EDINET」は、金融庁のページです。「書類検索」→「会社名を検索」すると、各社の決算書類を見ることができます(以下にリンクを張っておきます)。
(EDINET) https://disclosure.edinet-fsa.go.jp/
非上場(上場していない)会社の決算書は、株主にならないと見れないケースも多いです。株主になった場合は、株主総会の招集通知に決算書が添付されていますので、ここから見ることができます。
今回は、日本を代表する衣類メーカーである「ファーストリテイリング」の決算書を分析していきます。