【難易度★★★★☆】以上は「実務家向け」の内容が含まれますので、ご留意ください。
「GLサブモジュール(会計伝票の中身)」については、以下の記事をあわせてご参照ください。
「①SAPとは?」~「③FIモジュールの全体像」までの内容は前回と同様ですので、学習済みの方は「④統制勘定とは?」から読んでいただけますと幸いです。
「SAP」とは?(おさらい)
「SAP」とはなんでしょうか。「ERP」の1つというような話を聞いたことがありますが、そもそも「ERP」とはなんのことでしょうか。
「ERP」とは、企業活動に必要な経営資源や情報を一元的に管理し、限られた資源を効率的に活用しようという考え方のことをいいます。
また、「SAP」というのは「ERP」システムとして世界中の多くの会社で使われているSAP社の製品のことをいいます。
ERPは「Enterprise Resources Planning(企業資源計画)」の略です。
一般的に「ERP」といった場合、システムのことを指すことが多いかと思います。これらは企業の基幹業務に関わる情報であることから「基幹システム」や「基幹系情報システム」とも呼ばれています。
「ERP」「SAP」については、まずは以下の記事を読んでみることをおススメします。
そうでした。情報を一元管理することができるシステムのことでしたね。また、「SAP」は代表的な製品の1つですね。過去記事を読んで復習します。
「SAP」のモジュール全体像
「FIモジュール」の解説に入る前に、まずは「SAP」の各モジュールの概要を見ながら、全体像について理解していきましょう。
「モジュール」とはなんでしょうか。
「モジュール」とは、特定の業務に関連する複数の機能をまとめたプログラムの集まりのことをいいます。
「モジュール」という言葉は、「部品」という意味ですが、システム用語としては、プログラムの塊を指すことが多いです。SAPでは、代表的な「モジュール」として、FIモジュール(財務会計)、COモジュール(管理会計)、SDモジュール(販売管理)、MMモジュール(在庫/購買管理)、HRモジュール(人事管理)といったものがあります。
それでは、各モジュールの概要を見ていきましょう。なお、本記事ではこれらのうち「FIモジュール」について、解説を進めていきます。
- FI(Financial Accounting:財務会計)
⇒いわゆる財務会計モジュールのことを指しています。会計伝票の記帳、帳簿残高の管理、債権債務管理、固定資産の管理等の財務会計に関する機能を有しています。
(関連ワード)勘定科目、会計伝票、元帳、統制勘定、消込管理 - CO(Controlling:管理会計)
⇒業績管理として部門やプロジェクト単位での費用や利益の管理、予算実績比較等の管理会計を行うためのモジュールです。部門間での費用の付替えや配賦等を行うことができます。
(関連ワード)原価センタ、内部指図、WBS、原価要素、配賦、付替 - SD(Sales and Distiribution:販売管理)
⇒製品の販売やサービス提供に関する一連の処理(受注→出荷→請求)を行うためのモジュールです。受注・出荷登録、請求書発行といった機能を有しています。
(関連ワード)販売組織、営業所、品目マスタ、得意先マスタ、与信管理 - MM(Material Management:在庫/購買管理)
⇒在庫、購買に関する一連の処理(見積→発注→検収→請求書処理)を行うためのモジュールです。入出庫の管理や請求書照合といった機能を有しています。
(関連ワード)購買組織、相見積、品目マスタ、仕入先マスタ、請求書照合 - HR(Human Resources:人事管理)
⇒人事管理に関する一連の業務(採用管理、勤怠管理、給与管理等)を行うためのモジュールです。タイムシートの管理や給与計算といった機能を有しています。
(関連ワード)従業員マスタ、タイムシート、給与計算、人材開発
他にも「TRモジュール(財務資金管理)」「PPモジュール(生産管理)」「PSモジュール(プロジェクト管理)」等の様々なモジュールがあります。
「財務会計」「管理会計」という言葉が初耳ですね。
「財務会計」とは、外部向けの会計報告(決算短信、有報作成等)のことをいいます。
「財務会計」は、ルール(IFRS等の会計基準)が細かく定められており、ルールに従って会計処理を行う必要があります(他社との比較を容易に行うことができるようにするためです)。
「管理会計」は、内部向けの会計報告(業績管理、予算管理等)のことをいいます。
「管理会計」は、社内の管理ルールに従えば良く、細かい規定はありません。
会社の外部向けなのか、内部向けなのかという点がポイントです。外部向けの報告の場合には、粉飾決算を行われないようにルールが厳しくなります。
「財務会計」は、株主や銀行といった方々への説明のために作成するので、好き勝手作られてしまうと困りますもんね。
「決算書の作成目的」について、以下の記事をあわせてご参照ください。
「決算短信」「有価証券報告書」については、以下の記事をあわせてご参照ください。
「粉飾決算」については、以下の記事をあわせてご参照ください。
「FIモジュール」の全体像
「FIモジュール」は、さらに以下のような「サブモジュール」に分解することができます。
- GL(General Ledger)
⇒FIの中で根幹をなす機能です。General Ledgerとは、いわゆる「会計帳簿」を意味しており、会計伝票の起票・管理、帳簿残高の管理等の機能を有します。 - AR(Accounts Receivables)
⇒売掛金等の債権に関する補助元帳の機能を有します。得意先ごとに債権残高の管理を行ったり、債権の入金・消込管理といった機能を有します。SDモジュールと連動します。 - AP(Accounts Payable)
⇒買掛金等の債務に関する補助元帳の機能を有します。仕入先ごとに債務残高の管理を行ったり、債務の支払・消込管理といった機能を有します。MMモジュールと連動します。 - AA(Asset Accounting)
⇒固定資産に関する補助元帳(固定資産台帳)の機能を有します。固定資産の取得・処分や減価償却費、減損損失の計上といった機能を有します。
「売掛金」「買掛金」については、以下の記事をあわせてご参照ください。
「減価償却」「減損損失」については、以下の記事をあわせてご参照ください。
一口に「FI」といっても様々なサブモジュールがあるんですね。
今回は、FIのなかでも「ARモジュール」「APモジュール」の機能の解説を進めていきます。
「統制勘定」とは?
「統制勘定」を理解する前提として「総勘定元帳」「補助元帳」について、解説を進めていきます。
「総勘定元帳」とは、すべての取引を勘定科目ごとに記録するための帳簿のことをいいます。
たとえば、売上を1,000万円計上する、現金が500万円入金される、固定資産100万円を計上する、減価償却費を10万円計上するといった様々な会計上の取引を記録する帳簿のことです。
用語がややこしいですが、要はいわゆる会計帳簿(会社の家計簿)のイメージを持っていただければOKです。
会社のメインとなる帳簿のことですね。
そうですね。「総勘定元帳」は勘定科目単位(たとえば、売掛金1,600万円といった具合)で記帳されるのですが、実務上は取引先ごと(A社1,000万円、B社500万円、C社100万円といった具合)に管理が求められることが多いです。そこで必要なのが「補助元帳」です。
「補助元帳」とは、特定の科目について、その明細を記録するための帳簿のことをいいます。
文字どおりですが、総勘定元帳を「補助」する役割を担うのが「補助元帳」です。たとえば、売掛金を得意先別に管理する、買掛金を仕入先別に管理する、固定資産を資産別に管理するというように特定の勘定科目の明細・内訳を管理するための帳簿のことをいいます。
なるほど。こちらは特定の科目だけに作られる補助的な帳簿なんですね。
そうですね。これらの帳簿を基にしながら、最終的に決算書を作成していきます。それでは、本題である「統制勘定」の定義について見ていきましょう。
「統制勘定」とは、総勘定元帳と補助元帳のそれぞれ同時に記帳される勘定のことをいいます。特に債権(売掛金等)、債務(買掛金等)、固定資産に利用されるケースが多いです。
同時に記帳、、?まだイメージが湧いていないです。
具体的な取引例を見ながら理解を深めていきましょう。
たとえば、A商事に1,000万円、B商事に500万円、C商店に100万円の売上を計上したとします。この際にどのように伝票を計上するのかというと、以下のような伝票を起票します。
(借方)A商事 1,000万円 / (貸方)売上 1,000万円
(借方)B商事 500万円 / (貸方)売上 500万円
(借方)C商店 100万円 / (貸方)売上 100万円
「補助元帳」には、それぞれの得意先別に残高が記帳されます。
一方、「総勘定元帳」には、売掛金という勘定科目ベースで1,600万円が記帳されます。
(借方)売掛金 1,000万円 / (貸方)売上 1,000万円
(借方)売掛金 500万円 / (貸方)売上 500万円
(借方)売掛金 100万円 / (貸方)売上 100万円
なぜ「A商事」のような得意先別に伝票を計上したのに、総勘定元帳では「売掛金」に変化しているのでしょうか。
それは得意先別の勘定の裏側には会計上の勘定科目(ここでいうと「売掛金」)が設定されているからです。
なるほど。ただ、「総勘定元帳」にも取引先別に細かく記帳すれば良いような気がしますが、あえて別々の勘定で記帳する理由はなぜなんでしょうか。
「総勘定元帳」の目的は、会計上の取引を網羅的に記帳し、決算書を作成することです。
そのため、取引先別に細かく記帳する必要はなく、内訳管理は「補助元帳」で行えば十分です。逆に、総勘定元帳に細かく記帳しすぎると、最終的に決算書を作成したり、全体的な残高管理を行うのに不便となる可能性があります。
なるほど。それぞれの目的に合わせて記帳の粒度を変えているということですね。
「消込管理」とは?
最後に「消込管理」という機能について解説して、今回は終了しましょう。
「消込管理」とは、債権・債務(AR・AP)に未消込、消込済のステータスを持たせて管理を行うことをいいます。
たとえば、A商事に対する債権500万円はこれから入金予定(未消込)、1,200万円は既に入金済み(消込済)といった具合に、取引ごとにステータスを管理することができます。
なるほど。「統制勘定」によって得意先や仕入先別に取引明細が管理されるので、この明細をもとにステータス管理を行うイメージですね。
まさにそのとおりです。上図のようなイメージでレポートを表示させたり、入出金があった場合に、これらの明細を選択することによって「消込」作業を行うことができます。
今回は「SAP」の1つのモジュールである「FIモジュール(財務会計)」について、解説していきます。
特に「AR/APサブモジュール」という債権債務の管理を行う機能を深掘りしていきますので、最後まで読んでいただけますと幸いです。