(実践編)「日本テレビホールディングス」の決算書分析_2022.3 ~有価証券報告書を読んでみる⑩~
【難易度★★★☆☆】

会計士

今回は、人気テレビ局を運営する「日本テレビホールディングス」の決算書を分析していきます。

相談者

私はテレビっ子なのでよくテレビを見ますが、近年は若者のテレビ離れが進んでいるという話もありますよね。

会計士

そうですね。そのような経済環境のなか、実際にどのような業績となっているのか、決算書を見ることで会社の「真の姿」を見ることができます。

主要な経営指標の推移

会計士

まずは、有価証券報告書の「主要な経営指標の推移」を見て、会社の全般的な経営状況を把握していきましょう。全体像を把握してから、徐々に細かい注記情報等に深堀りしていく読み方がおすすめです

(2022年3月期 日本テレビホールディングス「有価証券報告書」より抜粋)
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「主要な経営指標の推移」については、以下の記事もあわせてご参照ください。

会計士

主要な指標である「売上高(売上収益)」「当期純利益」については、グラフを作成してみましたので、あわせて見てみましょう(単位:百万円)。

相談者

売上や利益の推移を見ると、そこまで大きな落ち込みはなく、安定しているような印象ですね。

会計士

そうですね。今期は過去5年の中でも利益水準が1番高くなっていますし、テレビ離れによるマイナス影響というのは、直近の決算数値を見るだけはあまり感じられない結果になっているかと思います。

相談者

新規事業への投資も進めていると聞いたことがあるので、テレビ以外のビジネスも含めて安定した数字になっているのかもしれないですね。

なお、テレビホールディングスでは、今期より「新収益認識基準」を適用しています。本基準の適用による影響は軽微であるとのことです(そのため、分析上は無視します)。

(2022年3月期 日本テレビホールディングス「有価証券報告書」より抜粋)
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「新収益認識基準」については、以下の記事もあわせてご参照ください。

連結決算書

会計士

次に「BS」「PL」「CF計算書」という3つの主要な決算書を見ていきましょう。

以下、いずれも「連結ベース」で分析を進めていきます。

連結BS

会計士

まずは「BS」から見ていきます。後述しますが、流動比率や自己資本比率といった指標とあわせて見ていくと、会社の状況をより把握することができます。ここではBSの概況だけ見ておきます。

相談者

純資産の割合が非常に高いように見えますね。

会計士

そうですね。自己資本比率は、約80%となっています。負債利用が少なく、安全性の観点から健全な事業運営がなされているようです。

連結PL

会計士

次に「PL」を見ていきます。こちらも後述しますが、利益率、ROA、ROEといった指標とあわせて見ていくと、会社の状況をより把握することができます。ここではPLの概況だけ見ておきます。

相談者

「持分法による損益」や「株式の売却益」が利益に与えている影響が比較的大きいですね。

会計士

そうですね。BSの残高を見ても有価証券が占める比率は大きくなっています。ちなみに「持分法による損益」の対象となる「関連会社」には、地方のテレビ局などが含まれているようです。

(2022年3月期 日本テレビホールディングス「有価証券報告書」より抜粋)
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連結CF

会計士

最後に「CF計算書」を見ていきます。営業CFがプラスとなっており、投資CF、財務CFがそれぞれマイナスとなっています

相談者

投資CFが非常に大きくなっていますね。

会計士

そうですね。将来に向けた投資を積極的に行っているようです。ネット(純額)では、705億のマイナスとなっていますが、内訳を見ると投資有価証券の取得が大きくなっています(約1.820億円)。

(2022年3月期 日本テレビホールディングス「有価証券報告書」より抜粋)
相談者

なるほど。一方で、有価証券の償還(≒売却)による収入が1,243億円もあり、ネットすると約700億円前後となるのですね。

会計士

そうですね。また「1,000億円」もの投資枠を設定し、新規領域等への投資を積極的に行っていく方針を打ち出しており、今後の展開には注目です

(2022年3月期 日本テレビホールディングス「有価証券報告書」より抜粋)
相談者

なるほど。1,000億円というのはすごい規模です。当期純利益の2倍近い金額になりますね。

会計士

それだけ将来に向けての変革を重要視しているということですね。一例ですが、今期は「ムラヤマホールディングス」の買収といったM&Aも行っています。

(2022年3月期 日本テレビホールディングス「有価証券報告書」より抜粋)

注記情報

会計士

もう少し深堀りをするために「セグメント情報」「収益の分解」といった注記情報についても見ていきましょう。

セグメント情報

会計士

日本テレビホールディングスは「メディア・コンテンツ」「生活・健康関連」「不動産関連」といった事業別に開示を行っています

(2022年3月期 日本テレビホールディングス「有価証券報告書」より抜粋)
相談者

「生活・健康関連事業」や「不動産事業」というのは、どういった事業を行っているのでしょうか。

会計士

「生活・健康関連事業」は、いわゆるフィットネスクラブの経営など、テレビの枠を超えたサービス展開を意識した事業です。

「不動産事業」は、保有している汐留近辺の土地を第三者に貸し出すようなことを行っているようですね。

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「セグメント情報」については、以下の記事もあわせてご参照ください。

セグメント情報

収益の分解

会計士

日本テレビホールディングスは、広告収入、コンテンツ販売収入といった「サービス別」に収益を分解して開示を行っています

(2022年3月期 日本テレビホールディングス「有価証券報告書」より抜粋)
相談者

やはり主たる収入源は、テレビの広告収入ですね。それ以外にもコンテンツの販売や物品販売でも収益計上をしているようですね。

会計士

そうですね。テレビ離れといわれる中、広告収入だけに頼らないビジネスモデルの構築というのは今後の課題のようですね。中期経営計画におけるスローガンでも、以下のように謳っています。

(2022年3月期 日本テレビホールディングス「有価証券報告書」より抜粋)
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指標分析

会計士

ここからは安全性や収益性といった様々な指標を見ながら、決算書の分析をさらに進めていきます。まずは「安全性」の指標を見ていきます。

安全性分析

流動比率

会計士

日本テレビホールディングスの「流動比率」は255.8%と目安の100%を上回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。

同業他社
  • TBSホールディングス ⇒ 262.9%
  • テレビ朝日ホールディングス ⇒ 256.9%

自己資本比率

会計士

日本テレビホールディングスの「自己資本比率」は79.7%と目安の50%を上回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。

同業他社
  • TBSホールディングス ⇒ 72.3%
  • テレビ朝日ホールディングス ⇒ 78.6%
相談者

安全性という意味だと問題がなさそうですね。

会計士

そうですね。ただ、積極的な投資に伴って借金が増えてくると、安全性に問題が出てくる可能性もありますので、今後の展開には留意が必要です

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「安全性分析」については、以下の記事もあわせてご参照ください。

収益性分析

会計士

次に「収益性」の指標を見ていきます。

利益率

日本テレビホールディングス
  • 売上総利益率 ⇒ 37.6%
  • 営業利益率  ⇒ 14.4%
  • 税引前利益  ⇒ 16.9%
  • 当期純利益率 ⇒ 11.7%
会計士

なお、同業他社の数字は以下のとおりとなっています(2022年3月期の有価証券報告書より計算しています)。

TBSホールディングス
  • 売上総利益率 ⇒ 32.0%
  • 営業利益率  ⇒ 5.7%
  • 税引前利益  ⇒ 13.3%
  • 当期純利益率 ⇒ 8.9%
テレビ朝日ホールディングス
  • 売上総利益率 ⇒ 29.2%
  • 営業利益率  ⇒ 7.2%
  • 税引前利益  ⇒ 10.2%
  • 当期純利益率 ⇒ 7.0%
相談者

同業他社よりも利益水準は高そうですね。収益性という観点からも大きな問題なさそうです。

ROA

会計士

日本テレビホールディングスの「ROA」は4.5%と目安の5%を下回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。

同業他社
  • TBSホールディングス ⇒ 3.1%
  • テレビ朝日ホールディングス ⇒ 4.3%
相談者

目安となる水準を下回ってはいますが、ROAも同業他社より高い水準にあるようですね。

ROE

会計士

日本テレビホールディングスの「ROE」は5.7%と目安の8%を下回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。

同業他社
  • TBSホールディングス  3.9%
  • テレビ朝日ホールディングス  5.5%
相談者

同業他社もそうですが、ROEは目安となる数字(8%)よりも低いんですね。

会計士

そうですね。具体的な要因をデュポンシステムによる分解分析で見ていきましょう。

デュポンシステムによる分解

会計士

ここからはROEをさらに分解して分析を進めていきます。

日本テレビHD
  • 利益率 ⇒ 11.7%
  • 総資産回転率 ⇒ 0.39
  • 財務レバレッジ ⇒ 1.26
相談者

利益率は「11.7%」と比較的高い一方で、総資産回転率が「0.39」と低い水準になっていますね。

会計士

そうですね。数字を見る限り、資産効率が良くない可能性があります。BS残高(約1兆円)のうち、投資有価証券が占める割合が大きい(約4,600億円)ことが主な要因かと思います。取引先との付き合いによる持ち合い株式等を多く保有しているものと推測されます。

相談者

なるほど。昔からのお付き合いなどの戦略的観点から他社の株式を多く保有しているんですね。

会計士

なお、同業他社の数字は以下のとおりです。

アサヒグループHD
  • 利益率 ⇒ 8.9%
  • 総資産回転率 ⇒ 0.34
  • 財務レバレッジ ⇒ 1.26
キリンHD
  • 利益率 ⇒ 7.0%
  • 総資産回転率 ⇒ 0.61
  • 財務レバレッジ ⇒ 1.27

株価分析

会計士

最後に「株価分解」「PBR」「PER」といった株価関連の指標を見て分析を終わりにします。

株価分解

会計士

まずは、2022年3月時点における株価の構成要素分解をしていきます。

計算式

「株価」は、以下の式で計算することができます。
株価 = PER × EPS(一株あたり純利益)

PBR

会計士

直近(9/2時点)のyahooファイナンスにおけるPBRは「0.37」となっています。

PBRの計算式

「PBR」は、以下の式で計算することができます。
PBR(株価純資産倍率)= 株価÷1株あたりの株主資本

PER

会計士

直近(9/2時点)のyahooファイナンスにおけるPERは「7.52」となっています。

PERの計算式

「PER」は、以下の式で計算することができます。
PER(株価収益率)=株価÷1株あたりの利益

相談者

株価は、かなり割安水準にあるようですね。

あわせて読みたい

先日「2023年3月期 第1四半期」の決算発表が公表されましたので、最新の決算数値もあわせて読んでみましょう。

日本テレビHD社HP:IR資料室
https://www.ntvhd.co.jp/ir/library/securities/

本記事のまとめ
  • 「主要な経営指標の推移」⇒「BS」「PL」「CF」⇒「注記情報」⇒「指標分析」といったように、まずはハイレベルな情報から読み始め、徐々に細かい注記情報等を見ていくのがおすすめ
  • 1.000億円という積極的な投資枠の設定により、新規事業等への展開を進めている。現時点では、安全性、収益性のいずれの指標も目安を上回っており、同業他社との比較をしても問題ない水準であると考えられるが、今後の展開には留意が必要
  • ROEは目安となる8%を下回っているが、総資産回転率が低い(資産効率が悪い)ことが主たる要因となっている相互持ち合い株式の保有が大きいことが主な要因と推測される

「決算書」ってどこで見れるの?

上場している会社の決算書は以下のページから見ることができます。

  1. 会社のHP
  2. EDINET

①の会社のHPから見るときは「IR情報」というページ見れることが多いです。その他「決算情報」等会社によってHPの構成や呼び方は違いますが、これらのキーワードで簡単に見つかると思います。
②の「EDINET」は、金融庁のページです。「書類検索」→「会社名を検索」すると、各社の決算書類を見ることができます(以下にリンクを張っておきます)。

(EDINET) https://disclosure.edinet-fsa.go.jp/

非上場(上場していない)会社の決算書は、株主にならないと見れないケースも多いです。株主になった場合は、株主総会の招集通知に決算書が添付されていますので、ここから見ることができます。