(実践編)「メルカリ」の決算書分析_2022.6 ~有価証券報告書を読んでみる⑮~
【難易度★★★☆☆】

会計士

今回は、フリマアプリ「メルカリ」やバーコード決済サービス「メルペイ」等を展開しているメルカリ社の決算書を分析していきます。

相談者

10年ほど前まではあまり知名度がなかったと思いますが、ここ最近で急激に有名になりましたね。私もよくフリマアプリを利用しています。

会計士

そうですね。いままで当サイトで分析してきた企業はいわゆる「成熟企業」が多かったですが、メルカリは「新興企業」に分類されるような企業です

相談者

決算書の内容も成熟企業とは違う特徴が出てくるのでしょうか。楽しみです。

なお、メルカリ社はまだまだ新興企業ながら、東証の最上位区分である「プライム市場」に上場しています。

上場

主要な経営指標の推移

会計士

まずは、有価証券報告書の「主要な経営指標の推移」を見て、会社の全般的な経営状況を把握していきましょう。全体像を把握してから、徐々に細かい注記情報等に深堀りしていく読み方がおすすめです

(2022年6月期 メルカリ「有価証券報告書」より抜粋)
あわせて読みたい

「主要な経営指標の推移」については、以下の記事もあわせてご参照ください。

会計士

主要な指標である「売上高(売上収益)」「当期純利益」については、グラフを作成してみましたので、あわせて見てみましょう(単位:百万円)。

相談者

売上は右肩上がりで成長を続けている一方で、利益は赤字となっている期が多いようですね。

会計士

新興企業ということもあり、投資が先行している状況かと思います。今後、投資した分のリターンを回収できるかが大きなポイントになります

相談者

なるほど。従業員数を見ても5年で倍増しているようです。

会計士

そうですね。海外在住の内定者も獲得し、事業規模は順調に拡大しているようです。今後のさらなる成長に期待ですね。

(2022年6月期 メルカリ「決算説明会資料」より抜粋)

連結決算書

会計士

次に「BS」「PL」「CF計算書」という3つの主要な決算書を見ていきましょう。

以下、いずれも「連結ベース」で分析を進めていきます。

連結BS

会計士

まずは「BS」から見ていきます。後述しますが、流動比率や自己資本比率といった指標とあわせて見ていくと、会社の状況をより把握することができます。ここではBSの概況だけ見ておきます。

相談者

負債が非常に多く、資本の割合が小さい状況になっていますね。

会計士

まだまだ成長段階ということで、事業拡大のための借金が多くなっているようです。以下の決算説明資料を見ても「成長」に力を入れていることが読み取れるので、当面は借金が多い財政状態となるかもしれません。

(2022年6月期 メルカリ「決算説明会資料」より抜粋)
(2022年6月期 メルカリ「決算説明会資料」より抜粋)
相談者

なるほど。いまは投資フェーズということでどんどんお金を借りながら事業を成長させているんですね。

会計士

そうですね。「リターン>利息」となるような借金であれば、良い借金といえるので、有望な事業への投資であれば借金をしてでも進めるべきですね

ただし、安全性という観点からは借金の割合が非常に高くリスキーであると見ることもできますので、今後の動向には注意が必要です。

財務レバレッジ
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「良い借金」「悪い借金」については、以下の記事もあわせてご参照ください。

財務レバレッジ

連結PL

会計士

次に「PL」を見ていきます。こちらも後述しますが、利益率、ROA、ROEといった指標とあわせて見ていくと、会社の状況をより把握することができます。ここではPLの概況だけ見ておきます。

相談者

今期は通年で赤字となっているようですね。「税前損失よりも純損失が大きくなっている」ようですが、赤字でも税金はかかっているんでしょうか。

会計士

そうですね。法人税は「会計上の利益」ではなく、「課税所得(≒税務上の利益)」に対して課せられるためです(詳細は以下の記事もあわせてご参照ください。)。

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相談者

なるほど。「会計上の利益」と「税務上の利益」は異なるため、赤字でも税金がかかる可能性があるということですね。

会計士

そのとおりです。税金を含めた最終損益を見ると、赤字幅が縮小しているものの、今期も約5%ほどの赤字となっていますね。

連結CF

会計士

最後に「CF計算書」を見ていきます。営業CF、投資CFがそれぞれマイナスとなっており、財務CFが大きくプラスなっています

「為替による変動額」は除いているため、「期首+営業CF+投資CF+財務CF≠期末」となっています(為替影響は+4,767M)。

相談者

下図の分類でいうと「新興企業」に分類されますね。

会計士

そうですね。営業CFがマイナスというのは気になりますが、事業拡大に向けて借金を続けているということで、今後の動向に注意が必要です。

注記情報

会計士

もう少し深堀りをするために「セグメント情報」「収益の分解」といった注記情報についても見ていきましょう。

セグメント情報

会計士

メルカリは、単一セグメントのためセグメント別の情報を開示していません

相談者

詳細な分析ができないですね。。

会計士

今期から「新収益認識基準」を適用したことによって、「収益の分解」という注記情報が開示されています。こちらで売上に関する詳細な分析が可能ですので、見ていきましょう。

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「セグメント情報」については、以下の記事もあわせてご参照ください。

セグメント情報

収益の分解

会計士

メルカリは、主要なサービス、地域別に収益を分解して開示を行っています

(2022年6月期 メルカリ「有価証券報告書」より抜粋)
相談者

国内でのビジネスが中心かと思っていましたが、海外の売上も3分の2近くあるんですね。

会計士

そうですね。ここ数年で海外(USメルカリ)の市場も大きく成長しているようです。

(2022年6月期 メルカリ「決算説明会資料」より抜粋)

GMV:Gross Merchandise Valueの略で、「流通取引総額」のことをいいます。

MAU:Monthly Active Usersの略で、「月当たりのアクティブユーザー」のことをいいます。

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指標分析

会計士

ここからは安全性や収益性といった様々な指標を見ながら、決算書の分析をさらに進めていきます。まずは「安全性」の指標を見ていきます。

安全性分析

流動比率

会計士

メルカリの「流動比率」は135.0%と目安の100%を上回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。

同業他社
  • 楽天グループ ⇒ 107.1%
  • Zホールディングス ⇒ 172.2%

自己資本比率

会計士

メルカリの「自己資本比率」は10.8%と目安の50%を大幅に下回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。

同業他社
  • 楽天グループ ⇒ 6.5%(※)
  • Zホールディングス ⇒ 37.8%

楽天グループは、金融事業も含めた数字のため、大幅に小さくなっています。

相談者

安全性の観点からは、少し注意が必要そうですね。

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「安全性分析」については、以下の記事もあわせてご参照ください。

収益性分析

会計士

次に「収益性」の指標を見ていきます。

利益率

メルカリ
  • 売上総利益率 ⇒ 64.7%
  • 営業利益率  ⇒ -2.5%
  • 税引前利益率 ⇒ -2.7%
  • 当期純利益率 ⇒ -5.2%
会計士

なお、同業他社の数字は以下のとおりとなっています(2022年3月期の有価証券報告書より計算しています)。

楽天グループ
  • 売上総利益率 ⇒ -16.9%
  • 営業利益率  ⇒ -11.6%
  • 税引前利益率 ⇒ -12.6%
  • 当期純利益率 ⇒ -8.0%
Zホールディングス
  • 売上総利益率 ⇒ 68.3%
  • 営業利益率  ⇒ 12.1%
  • 税引前利益率 ⇒ 10.1%
  • 当期純利益率 ⇒ 4.9%
相談者

有名な会社ばかりですが、意外と赤字になっている会社も多いのですね。。

会計士

そうですね。メルカリや楽天グループ(特にモバイル)は、新規事業への投資フェーズであるため赤字となっているようです

ROA

会計士

メルカリの「ROA」は-2.5%と目安の5%を下回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。

同業他社
  • 楽天グループ ⇒ -8.0%
  • Zホールディングス ⇒ 4.9%

ROE

会計士

メルカリの「ROE」は20.0%と目安の8%を下回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。

同業他社
  • 楽天グループ  -15.5%
  • Zホールディングス ⇒ 2.9%
相談者

ROA、ROEの水準はいずれも目安を下回っていて、現時点での収益性はあまりよろしくないですね。

会計士

そうですね。繰り返しで恐縮ですが、まだ投資フェーズであり、売上が堅調に拡大していることから、今後の動向に注目です。

デュポンシステムによる分解

会計士

ここからはROEをさらに分解して分析を進めていきます。

メルカリ
  • 利益率 ⇒ -5.2%
  • 総資産回転率 ⇒ 0.49
  • 財務レバレッジ ⇒ 7.95
楽天グループ
  • 利益率 ⇒ -8.0%
  • 総資産回転率 ⇒ 0.11(※)
  • 財務レバレッジ ⇒ 17.04(※)
Zホールディングス
  • 利益率 ⇒ 15.3%
  • 総資産回転率 ⇒ 0.87
  • 財務レバレッジ ⇒ 1.65

楽天グループは、金融事業も含めた数字であるため、比較の際はご留意ください。

このような会社の数字を分析する際には「セグメント情報」のレベルで分解することが非常に有用です。以下の記事もあわせてご参照ください。

相談者

新興企業の場合、赤字となることも多いということで、収益性の分析をするのが難しいですね。

会計士

そうですね。こういった新興企業の場合には、利益以外の指標(売上やユーザー数)を見ることや、将来の展望を中期経営計画等で確認することも企業分析の際には重要になります

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その他のデュポンシステムの事例については、以下の記事をあわせてご参照ください。

株価分析

会計士

最後に「PBR」「PER」といった株価関連の指標を見て分析を終わりにします。

PBR

会計士

直近(10/21時点)の楽天証券におけるPBRは「9.66」となっています。

PER

会計士

直近(10/21時点)の楽天証券におけるPERは「237.41」となっています。

相談者

PBR、PERともに目安となる水準を大きく上回っていますね。

会計士

そうですね。それだけ将来の成長性に対する市場の期待値が大きいということの表れでもあります。

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本記事のまとめ
  • 「主要な経営指標の推移」⇒「BS」「PL」「CF」⇒「注記情報」⇒「指標分析」といったように、まずはハイレベルな情報から読み始め、徐々に細かい注記情報等を見ていくのがおすすめ
  • 新興企業であり、投資フェーズが続いているため、赤字となっている。また、借金の割合も非常に大きくなっており、安全性の観点からは留意が必要
  • 一方、海外事業(US)も成長を続けるなど、売上高は5年間で右肩上がりに成長しているため、将来的に黒字に転換できるかがポイントとなる

「決算書」ってどこで見れるの?

上場している会社の決算書は以下のページから見ることができます。

  1. 会社のHP
  2. EDINET

①の会社のHPから見るときは「IR情報」というページ見れることが多いです。その他「決算情報」等会社によってHPの構成や呼び方は違いますが、これらのキーワードで簡単に見つかると思います。
②の「EDINET」は、金融庁のページです。「書類検索」→「会社名を検索」すると、各社の決算書類を見ることができます(以下にリンクを張っておきます)。

(EDINET) https://disclosure.edinet-fsa.go.jp/

非上場(上場していない)会社の決算書は、株主にならないと見れないケースも多いです。株主になった場合は、株主総会の招集通知に決算書が添付されていますので、ここから見ることができます。