(実践編)「三菱商事」の決算書分析_2022.3 ~有価証券報告書を読んでみる④~
【難易度★★★☆☆】

会計士

今回は、日本を代表する総合商社「三菱商事」の決算書を分析していきます。

相談者

日本を代表する商社ですね。とても華やかなイメージがあります。

主要な経営指標の推移

会計士

まずは、有価証券報告書の「主要な経営指標の推移」を見て、会社の全般的な経営状況を把握していきましょう。全体像を把握してから、徐々に細かい注記情報等に深堀りしていく読み方がおすすめです

(2022年3月期 三菱商事「有価証券報告書」より抜粋)
会計士

主要な指標である「売上高(売上収益)」「当期純利益」については、グラフを作成して見ましたので、あわせて推移を見てみましょう(単位:百万円)。

相談者

売上や利益の水準にブレがありますが、今期は業績が良さそうですね。売上が17兆円というのはすごい数字です。

会計士

そうですね。資源価格の高騰により売上が大きく増加しているものと推測されます。「セグメント情報」にて後ほど深掘りしていきます。

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「主要な経営指標の推移」については、以下の記事もあわせてご参照ください。

連結決算書

会計士

次に「BS」「PL」「CF計算書」という3つの主要な決算書を見ていきましょう。

以下、いずれも「連結ベース」で分析を進めていきます。

連結BS

会計士

まずは「BS」から見ていきます。後述しますが、流動比率や自己資本比率といった指標とあわせて見ていくと、会社の状況をより把握することができます。ここではBSの概況だけ見ておきます。

相談者

負債の割合がやや高いように見えますね。

会計士

そうですね。ただ、過去の水準から大きな変動がないので、苦し紛れの借金という感じではなさそうです。借金を効果的に利用しながらビジネスを行っていると見ることもできますね。

連結PL

会計士

次に「PL」を見ていきます。こちらも後述しますが、利益率、ROA、ROEといった指標とあわせて見ていくと、会社の状況をより把握することができます。ここではPLの概況だけ見ておきます。

相談者

「持分法による損益」が利益に与えている影響が比較的大きいですね。

会計士

今期は、関連会社である「三菱自動車」の業績回復などによって大きくプラスとなっているようです。

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連結CF

会計士

最後に「CF計算書」を見ていきます。営業CFがプラスとなっており、投資CF、財務CFがそれぞれマイナスとなっています

「為替による変動額」は除いているため、「期首+営業CF+投資CF+財務CF≠期末」となっています(為替影響は+42,848M)。

「投資CF」について、不採算事業の売却等に伴う+4,500億を超える収入もありましたが、それを上回る新規投資があったことからネット(純額)で見ると△167,550百万円の支出となっています。

相談者

本業で儲かったお金をもとに将来投資や借金の返済に回しているんですね。

会計士

そうですね。大きく営業CFが出ていますし、以下の分類における「優良型」に該当しますので、キャッシュ・フロー的には問題なさそうです。

注記情報

会計士

もう少し深堀りをするために「セグメント情報」「収益の分解」といった注記情報についても見ていきましょう。

セグメント情報

会計士

三菱商事は「天然ガス」「総合資材」「石油・化学」「金属資源」「産業インフラ」「自動車・モビリティ」「食品産業」「コンシューマ産業」「電力ソリューション」「複合都市開発」という10の事業グループ別にセグメント情報の開示を行っています

相談者

非常に幅広い事業に展開していますね。さすが総合商社です。

(2022年3月期 三菱商事「有価証券報告書」より抜粋)
会計士

前期と比較すると「金属資源」事業の純利益が大きく増加しています(約780億⇒4,200億)。

また、「自動車・モビリティ」事業も持分法による投資損益が黒字化したことによって大きく純利益が増加しています(約△280億⇒1,060億)。

相談者

「金属資源事業」の純利益だけで全体の約45%を占めていますね。

会計士

そうですね。「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載されている以下の内容も読んでおくと「金属資源事業」の状況についてさらに理解が深まります。

(2022年3月期 三菱商事「有価証券報告書」より抜粋)
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「セグメント情報」については、以下の記事もあわせてご参照ください。

セグメント情報

収益の分解

会計士

三菱商事は、事業別のセグメント情報をさらに「顧客との契約から認識した収益」と「その他の源泉から認識した収益」に分解しています

(2021年12月期 サントリー食品インターナショナル「有価証券報告書」より抜粋)
相談者

「その他の源泉」というのはどういったものでしょうか。。

会計士

少し高度な内容となりますが、IFRS9号で会計処理されるデリバティブ取引やIFRS16号で会計処理される貸手のリースに関する収益などが計上されています(下図、注記情報参照)。

(2021年3月期 三菱商事「有価証券報告書」より抜粋)
相談者

数字を見てみると、やはり資源関係の事業の数字が大きくなっていますね。

会計士

そうですね。資源高の影響で「天然ガス(+約5,700億)」「総合資材(+約6,000億)」「石油・化学(+約1兆,5000億)」「金属資源(+約1兆)」といった事業は大幅に売上の金額が大きくなっています。

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指標分析

会計士

ここからは安全性や収益性といった様々な指標を見ながら、決算書の分析をさらに進めていきます。まずは「安全性」の指標を見ていきます。

安全性分析

流動比率

会計士

三菱商事の「流動比率」は130.2%と目安の100%を上回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。

同業他社
  • 三井物産 ⇒ 150.1%
  • 伊藤忠商事 ⇒ 131.8%

自己資本比率

会計士

三菱商事の「自己資本比率」は31.4%と目安の50%を下回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。

同業他社
  • 三井物産 ⇒ 37.6%
  • 伊藤忠商事 ⇒ 34.6%
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「安全性分析」については、以下の記事もあわせてご参照ください。

収益性分析

会計士

次に「収益性」の指標を見ていきます。

利益率

三菱商事
  • 売上総利益率 ⇒ 12.5%
  • 営業利益率  ⇒ 4.2%
  • 税引前利益率 ⇒ 7.5%
  • 当期純利益率 ⇒ 5.4%
会計士

なお、同業他社の数字は以下のとおりとなっています(2022年3月期の有価証券報告書より計算しています)。

三井物産
  • 売上総利益率 ⇒ 9.7%
  • 営業利益率  ⇒ 4.6%
  • 税引前利益率 ⇒ 9.9%
  • 当期純利益率 ⇒ 7.8%
伊藤忠商事
  • 売上総利益率 ⇒ 15.8%
  • 営業利益率  ⇒ 4.8%
  • 税引前利益率 ⇒ 9.4%
  • 当期純利益率 ⇒ 6.7%
相談者

同業他社と比べるとやや低いですが、そんなに悪い水準ではなさそうですね。

ROA

会計士

三菱商事の「ROA」は4.6%と目安の5%を下回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。

同業他社
  • 三井物産 ⇒ 6.7%
  • 伊藤忠商事 ⇒ 7.0%
相談者

同業他社と比べて低い水準にあるようですね。

ROE

会計士

三菱商事の「ROE」は15.0%と目安の8%を上回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。

同業他社
  • 三井物産  18.0%
  • 伊藤忠商事  21.8%
相談者

ROA、ROEの水準はいずれも目安を上回っていますが、同業他社と比べるとやや低い水準にあるようですね。

デュポンシステムによる分解

会計士

ここからはROEをさらに分解して分析を進めていきます。

三菱商事
  • 利益率 ⇒ 5.4%
  • 総資産回転率 ⇒ 0.85
  • 財務レバレッジ ⇒ 3.25
相談者

利益率が5.4%と比較的高いのに加えて、レバレッジ効果でさらにROEを引き上げていますね。

会計士

そうですね。ちなみにですが、前々期は「9.80%」前期は「3.18%」となっています。レバレッジが3倍と高いので、利益水準によってROEの増減も大きくなっていますね。

会計士

なお、同業他社の数字は以下のとおりです。

三井物産
  • 利益率 ⇒ 7.8%
  • 総資産回転率 ⇒ 0.86
  • 財務レバレッジ ⇒ 2.70
伊藤忠商事
  • 利益率 ⇒ 6.7%
  • 総資産回転率 ⇒ 1.05
  • 財務レバレッジ ⇒ 3.10
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その他のデュポンシステムの事例については、以下の記事をあわせてご参照ください。

株価分析

株価分解

会計士

まずは、2022年3月時点における株価の構成要素分解をしていきます。

計算式

「株価」は、以下の式で計算することができます。
株価 = PER × EPS(一株あたり純利益)

PBR

会計士

直近(7/8時点)のyahooファイナンスにおけるPBRは「0.83」となっています。

PBRの計算式

「PBR」は、以下の式で計算することができます。
PBR(株価純資産倍率)= 株価÷1株あたりの株主資本

PER

会計士

直近(7/8時点)のyahooファイナンスにおけるPERは「6.75」となっています。

PERの計算式

「PER」は、以下の式で計算することができます。
PER(株価収益率)=株価÷1株あたりの利益

相談者

PBR、PERともに目安となる水準を下回っているので割安となっている可能性もありそうですね。

会計士

そうですね。2020年に著名な投資家ウォーレン・バフェットが日本の商社株へ投資したことが大きな話題となりましたが、それ以来、株価は大きく上昇を続けています

とはいえ、指標を見ると未だに割安水準にあるので、今後の業績次第ではさらなる株価の上昇が見込めるかもしれません。

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本記事のまとめ
  • 「主要な経営指標の推移」⇒「BS」「PL」「CF」⇒「注記情報」⇒「指標分析」といったように、まずはハイレベルな情報から読み始め、徐々に細かい注記情報等を見ていくのがおすすめ
  • 資源高の影響により資源関連事業(天然ガス・総合資材・石油化学・金属資源)売上が大幅に増加しているROEの水準は「15倍」と高いものの、財務レバレッジ効果が働いているため、利益水準の変動によってブレが大きくなっている
  • バフェットによる投資以降、株価は上昇局面にあるものの、株価指標は未だに割安となっている。好業績が今後も続くようであれば、さらなる株価上昇も期待できる

「決算書」ってどこで見れるの?

上場している会社の決算書は以下のページから見ることができます。

  1. 会社のHP
  2. EDINET

①の会社のHPから見るときは「IR情報」というページ見れることが多いです。その他「決算情報」等会社によってHPの構成や呼び方は違いますが、これらのキーワードで簡単に見つかると思います。
②の「EDINET」は、金融庁のページです。「書類検索」→「会社名を検索」すると、各社の決算書類を見ることができます(以下にリンクを張っておきます)。

(EDINET) https://disclosure.edinet-fsa.go.jp/

非上場(上場していない)会社の決算書は、株主にならないと見れないケースも多いです。株主になった場合は、株主総会の招集通知に決算書が添付されていますので、ここから見ることができます。