私はテレビっ子なのでよくテレビを見ますが、近年は若者のテレビ離れが進んでいるという話もありますよね。
そうですね。そのような経済環境のなか、実際にどのような業績となっているのか、決算書を見ることで会社の「真の姿」を見ることができます。
Contents
主要な経営指標の推移
まずは、有価証券報告書の「主要な経営指標の推移」を見て、会社の全般的な経営状況を把握していきましょう。全体像を把握してから、徐々に細かい注記情報等に深堀りしていく読み方がおすすめです。
「主要な経営指標の推移」については、以下の記事もあわせてご参照ください。
主要な指標である「売上高(売上収益)」「当期純利益」については、グラフを作成してみましたので、あわせて見てみましょう(単位:百万円)。
売上や利益の推移を見ると、そこまで大きな落ち込みはなく、安定しているような印象ですね。
そうですね。今期は過去5年の中でも利益水準が1番高くなっていますし、テレビ離れによるマイナス影響というのは、直近の決算数値を見るだけはあまり感じられない結果になっているかと思います。
新規事業への投資も進めていると聞いたことがあるので、テレビ以外のビジネスも含めて安定した数字になっているのかもしれないですね。
なお、テレビホールディングスでは、今期より「新収益認識基準」を適用しています。本基準の適用による影響は軽微であるとのことです(そのため、分析上は無視します)。
「新収益認識基準」については、以下の記事もあわせてご参照ください。
連結決算書
次に「BS」「PL」「CF計算書」という3つの主要な決算書を見ていきましょう。
以下、いずれも「連結ベース」で分析を進めていきます。
連結BS
まずは「BS」から見ていきます。後述しますが、流動比率や自己資本比率といった指標とあわせて見ていくと、会社の状況をより把握することができます。ここではBSの概況だけ見ておきます。
純資産の割合が非常に高いように見えますね。
そうですね。自己資本比率は、約80%となっています。負債利用が少なく、安全性の観点から健全な事業運営がなされているようです。
連結PL
次に「PL」を見ていきます。こちらも後述しますが、利益率、ROA、ROEといった指標とあわせて見ていくと、会社の状況をより把握することができます。ここではPLの概況だけ見ておきます。
「持分法による損益」や「株式の売却益」が利益に与えている影響が比較的大きいですね。
そうですね。BSの残高を見ても有価証券が占める比率は大きくなっています。ちなみに「持分法による損益」の対象となる「関連会社」には、地方のテレビ局などが含まれているようです。
「持分法」については、以下の記事もあわせてご参照ください。
連結CF
最後に「CF計算書」を見ていきます。営業CFがプラスとなっており、投資CF、財務CFがそれぞれマイナスとなっています。
投資CFが非常に大きくなっていますね。
そうですね。将来に向けた投資を積極的に行っているようです。ネット(純額)では、705億のマイナスとなっていますが、内訳を見ると投資有価証券の取得が大きくなっています(約1.820億円)。
なるほど。一方で、有価証券の償還(≒売却)による収入が1,243億円もあり、ネットすると約700億円前後となるのですね。
そうですね。また「1,000億円」もの投資枠を設定し、新規領域等への投資を積極的に行っていく方針を打ち出しており、今後の展開には注目です。
なるほど。1,000億円というのはすごい規模です。当期純利益の2倍近い金額になりますね。
それだけ将来に向けての変革を重要視しているということですね。一例ですが、今期は「ムラヤマホールディングス」の買収といったM&Aも行っています。
「決算書の基礎」については、以下の記事もあわせてご参照ください。
注記情報
もう少し深堀りをするために「セグメント情報」「収益の分解」といった注記情報についても見ていきましょう。
セグメント情報
日本テレビホールディングスは「メディア・コンテンツ」「生活・健康関連」「不動産関連」といった事業別に開示を行っています。
「生活・健康関連事業」や「不動産事業」というのは、どういった事業を行っているのでしょうか。
「生活・健康関連事業」は、いわゆるフィットネスクラブの経営など、テレビの枠を超えたサービス展開を意識した事業です。
「不動産事業」は、保有している汐留近辺の土地を第三者に貸し出すようなことを行っているようですね。
「セグメント情報」については、以下の記事もあわせてご参照ください。
収益の分解
日本テレビホールディングスは、広告収入、コンテンツ販売収入といった「サービス別」に収益を分解して開示を行っています。
やはり主たる収入源は、テレビの広告収入ですね。それ以外にもコンテンツの販売や物品販売でも収益計上をしているようですね。
そうですね。テレビ離れといわれる中、広告収入だけに頼らないビジネスモデルの構築というのは今後の課題のようですね。中期経営計画におけるスローガンでも、以下のように謳っています。
「収益の分解」については、以下の記事もあわせてご参照ください。
「顧客との契約による収益」については、以下の記事をあわせてご参照ください。
指標分析
ここからは安全性や収益性といった様々な指標を見ながら、決算書の分析をさらに進めていきます。まずは「安全性」の指標を見ていきます。
安全性分析
流動比率
日本テレビホールディングスの「流動比率」は255.8%と目安の100%を上回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。
- TBSホールディングス ⇒ 262.9%
- テレビ朝日ホールディングス ⇒ 256.9%
自己資本比率
日本テレビホールディングスの「自己資本比率」は79.7%と目安の50%を上回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。
- TBSホールディングス ⇒ 72.3%
- テレビ朝日ホールディングス ⇒ 78.6%
安全性という意味だと問題がなさそうですね。
そうですね。ただ、積極的な投資に伴って借金が増えてくると、安全性に問題が出てくる可能性もありますので、今後の展開には留意が必要です。
「安全性分析」については、以下の記事もあわせてご参照ください。
収益性分析
次に「収益性」の指標を見ていきます。
利益率
- 売上総利益率 ⇒ 37.6%
- 営業利益率 ⇒ 14.4%
- 税引前利益 ⇒ 16.9%
- 当期純利益率 ⇒ 11.7%
なお、同業他社の数字は以下のとおりとなっています(2022年3月期の有価証券報告書より計算しています)。
- 売上総利益率 ⇒ 32.0%
- 営業利益率 ⇒ 5.7%
- 税引前利益 ⇒ 13.3%
- 当期純利益率 ⇒ 8.9%
- 売上総利益率 ⇒ 29.2%
- 営業利益率 ⇒ 7.2%
- 税引前利益 ⇒ 10.2%
- 当期純利益率 ⇒ 7.0%
同業他社よりも利益水準は高そうですね。収益性という観点からも大きな問題なさそうです。
ROA
日本テレビホールディングスの「ROA」は4.5%と目安の5%を下回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。
- TBSホールディングス ⇒ 3.1%
- テレビ朝日ホールディングス ⇒ 4.3%
目安となる水準を下回ってはいますが、ROAも同業他社より高い水準にあるようですね。
ROE
日本テレビホールディングスの「ROE」は5.7%と目安の8%を下回る水準となっています。また、同業他社の数字は以下のとおりです。
- TBSホールディングス ⇒ 3.9%
- テレビ朝日ホールディングス ⇒ 5.5%
同業他社もそうですが、ROEは目安となる数字(8%)よりも低いんですね。
そうですね。具体的な要因をデュポンシステムによる分解分析で見ていきましょう。
デュポンシステムによる分解
ここからはROEをさらに分解して分析を進めていきます。
- 利益率 ⇒ 11.7%
- 総資産回転率 ⇒ 0.39
- 財務レバレッジ ⇒ 1.26
利益率は「11.7%」と比較的高い一方で、総資産回転率が「0.39」と低い水準になっていますね。
そうですね。数字を見る限り、資産効率が良くない可能性があります。BS残高(約1兆円)のうち、投資有価証券が占める割合が大きい(約4,600億円)ことが主な要因かと思います。取引先との付き合いによる持ち合い株式等を多く保有しているものと推測されます。
なるほど。昔からのお付き合いなどの戦略的観点から他社の株式を多く保有しているんですね。
なお、同業他社の数字は以下のとおりです。
- 利益率 ⇒ 8.9%
- 総資産回転率 ⇒ 0.34
- 財務レバレッジ ⇒ 1.26
- 利益率 ⇒ 7.0%
- 総資産回転率 ⇒ 0.61
- 財務レバレッジ ⇒ 1.27
「デュポンシステム」については、以下の記事をあわせてご参照ください。
株価分析
最後に「株価分解」「PBR」「PER」といった株価関連の指標を見て分析を終わりにします。
株価分解
まずは、2022年3月時点における株価の構成要素分解をしていきます。
「株価」は、以下の式で計算することができます。
株価 = PER × EPS(一株あたり純利益)
PBR
直近(9/2時点)のyahooファイナンスにおけるPBRは「0.37」となっています。
「PBR」は、以下の式で計算することができます。
PBR(株価純資産倍率)= 株価÷1株あたりの株主資本
PER
直近(9/2時点)のyahooファイナンスにおけるPERは「7.52」となっています。
「PER」は、以下の式で計算することができます。
PER(株価収益率)=株価÷1株あたりの利益
株価は、かなり割安水準にあるようですね。
「PBR」「PER」については、以下の記事もあわせてご参照ください。
先日「2023年3月期 第1四半期」の決算発表が公表されましたので、最新の決算数値もあわせて読んでみましょう。
日本テレビHD社HP:IR資料室
https://www.ntvhd.co.jp/ir/library/securities/
「決算書」ってどこで見れるの?
上場している会社の決算書は以下のページから見ることができます。
- 会社のHP
- EDINET
①の会社のHPから見るときは「IR情報」というページ見れることが多いです。その他「決算情報」等会社によってHPの構成や呼び方は違いますが、これらのキーワードで簡単に見つかると思います。
②の「EDINET」は、金融庁のページです。「書類検索」→「会社名を検索」すると、各社の決算書類を見ることができます(以下にリンクを張っておきます)。
(EDINET) https://disclosure.edinet-fsa.go.jp/
非上場(上場していない)会社の決算書は、株主にならないと見れないケースも多いです。株主になった場合は、株主総会の招集通知に決算書が添付されていますので、ここから見ることができます。
今回は、人気テレビ局を運営する「日本テレビホールディングス」の決算書を分析していきます。